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「別に、聞いたわけじゃない。でもわざわざα の俺にお前がヒートになった事を伝えてくるなんて、考えたらだいたい分かるだろ。…なのにお前に馬鹿正直に本当のこと言うなんてそっちの方が驚きだよ俺は。頭いいんだからもっと上手くやれるだろうに」 「渥…ケーイチのことそんな風に言うな」 「悪くは言ってないだろ。…随分懐いてるんだな」 「俺はケーイチのことすきだよ。…優しくて、気配りができて、一緒に居ると安心する」 乗り出していた体を元の位置へ戻して、背もたれに背中を付ける。 脳内で最初に浮かんだのは、優しく微笑むケーイチではない。 「俺…無神経だよな」 隙間から零れ落ちるみたいに言葉が落ちた。 「前にケーイチの笑顔がすきだって言ったんだ。安心するって。でも今考えると無神経だったのかなって…」 思う。知らなかったとはいえ無理して笑ってくれてた笑顔が好きだなんて言ってしまった。今となっては、照れていたケーイチのあの表情も演じさせていたのかとさえ思ってしまう。 渥の視線を感じた。こんなこと言ったところで、また「優しい言葉をかけて欲しいだけだろ」みたいに言われるに決まってるのに。学習しないよなあ、俺も… 「お前はどこまでお人好しなわけ?」 しかし思い出して落ち込んでいく俺に向かって、渥の発した言葉は意外なものだった。 「お、お人好し…?」 「ケーイチが無理してたのかどうかは知らないけど、そんなのあいつの都合で勝手にやったことだろ。お前が無理して笑ってください優しくしてください、と言ったわけでもあるまいし」 「それは…そうだけど、でも」 「睦人に対して、睦人が優しいと感じた態度で接しようと決めたのはケーイチ自身だ。それに関して睦人が責任を感じるのは思い上がりだと俺は思うけどね。あいつだってそれは分かってるだろうし、そうやってお前がウジウジ悩むことを“優しい”ケーイチが望んでるとは思えないけど」 「……」 「…そんなに悩むことか?それとも俺の言ってること理解できない?」 理解はできる。そうか、そういう考え方もあるのか、と目から鱗な部分もある。思い上がっていたんだろうか俺は。 渥の言葉にしばし考える。そんな俺を見つめたままの渥を見返して、ぐっと込み上げるものがあった。 「……お人好しとか、そんなんじゃない。自分のことばっかりだよ。俺は。だって多分…怖いんだ」 「怖い?」 「例えケーイチが自分で決めた事だったとしても、傷付けて無理させて嫌われて…また、友達じゃなくなるのかなって思うと…こわい」 拒絶されて、傍にいる事も出来ず、電話番号さえ登録できなくなるようになるのかと思うと怖くなる。 今だって怖い。父親同士のおかげでこうやって話すことができてるけど、また今日が終わって、夏休みも終わり学校が始まったら、また遠い存在になってしまうのかと考えると胸が痛い。 友達が友達じゃなくなるのって結構きついんだよ、渥。 「俺は、友達で居たいんだ」 見つめる俺に、渥は目を逸らさなかった。何かを考えて口を開こうとしたが、言葉を発する前に閉じてしまうと、すいっと顔を扉の方へ向けた。

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