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07
「なんだ。どちらが先に居るのかと思ったら…二人とも随分早いな」
「えっ二人?…あー!リク!リクだー!」
「渥くん久しぶり。元気だった?」
「涼太さん。お久しぶりです」
渥が視線を上げた先でガラリと個室の扉が開く。
現れたのは渥の親父さんを筆頭に有紀と続き、最後に顔を出したのは俺の父親だった。
ワイシャツにネクタイはせず、明るめのライトグレーのパンツスーツを履いた有紀が迷いもせず、俺の隣の椅子に腰掛けた。
「久しぶり!リク夏なのに白いねえ。外出てないの?」
「りっちゃん最近部屋にこもってばっかりなんだよ。折角の夏休みなのに」
「そうなんですか?有達にはここぞとばかりに会社に来させてばかりだったから…睦人くん悪いね。寂しい思いさせてるかな?」
「あ、いえ!全然」
「全然!?ヒドイ!俺は超寂しかったのに!」
「そういう意味じゃない!いいから有紀は一回落ち着いて、椅子に真っ直ぐ座れ」
「はは、まるで小さな子供だな。有は」
父親達は奥の空いた席に隣合わせで座る。何故か父親が渥の隣に座って、親父さんが俺の隣に腰掛けた。
近くで見れば見る程、渥にそっくりだ。父親と同じ40代にはとても見えない。
だけど堂々とした立ち振る舞いや仕草からは貫禄を感じるし、身に纏う細いストライプのスーツだって正確な価値は分からないがいかにも高級そうだ。
仕事終わりとは思えない隙の無さと、漂う大人の色気とやらに緊張が走る。
「睦人くん、そんなに姿勢を正さなくても大丈夫だよ」
「あっ…す、すみません。つい」
「有紀」
顔を覗き込むように微笑まれて、その笑顔は本心なのか?怪しい…、なんて失礼な事を考えていると、渥が有紀の名前を呼んだ。
「なにー?」
「睦人と席、変わったら?緊張してる」
渥が食事のメニュー表を俺の父親の前に差し出しながらそんなことを言った。
有紀はすぐに俺の固い表情を見ると、いつもの笑顔で立ち上がる。
「リクこーたい!父さん無駄に顔がいいから緊張しちゃうよねー?」
「あ…え、いいよ。俺はここで」
「だーめ!交代交代!」
有紀に無理矢理席を立たされて俺は有紀が座っていた方へ。
俺が居た椅子には有紀が座って、その一連の様子を見ていた親父さんが俺の父親に苦笑いを向けた。
「私はそんなに危険人物ですか?」
「危なくはないけど、有くんの気持ちも分かるなあ。恭介くん女泣かせな雰囲気あるし」
同感だけど、ちょっと待て。俺に対して女泣かせな雰囲気は微塵も関係ない。
のほほんと微笑み返す父親に親父さんは肩をすくめる。そんな姿さえもスマートで様になった。父親の言っていた「昔は仲が良かった」も、あながち間違いではないらしい。
場が和むなか何となく渥の方に目を向けると、渥は笑い合う父親達の方を静かに眺めているようだった。
しかし、すぐに興味を無くしたようにメニューへ目を落とす。
――そういえば渥、みんなが来てから親父さんとだけ一言も会話してない…?
たまたまかも知れないが、その事実に気付いてしまうと無性に胸がそわそわした。
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