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「なんだ。どちらが先に居るのかと思ったら…二人とも随分早いな」 「えっ二人?…あー!リク!リクだー!」 「渥くん久しぶり。元気だった?」 「涼太さん。お久しぶりです」 渥が視線を上げた先でガラリと個室の扉が開く。 現れたのは渥の親父さんを筆頭に有紀と続き、最後に顔を出したのは俺の父親だった。 ワイシャツにネクタイはせず、明るめのライトグレーのパンツスーツを履いた有紀が迷いもせず、俺の隣の椅子に腰掛けた。 「久しぶり!リク夏なのに白いねえ。外出てないの?」 「りっちゃん最近部屋にこもってばっかりなんだよ。折角の夏休みなのに」 「そうなんですか?有達にはここぞとばかりに会社に来させてばかりだったから…睦人くん悪いね。寂しい思いさせてるかな?」 「あ、いえ!全然」 「全然!?ヒドイ!俺は超寂しかったのに!」 「そういう意味じゃない!いいから有紀は一回落ち着いて、椅子に真っ直ぐ座れ」 「はは、まるで小さな子供だな。有は」 父親達は奥の空いた席に隣合わせで座る。何故か父親が渥の隣に座って、親父さんが俺の隣に腰掛けた。 近くで見れば見る程、渥にそっくりだ。父親と同じ40代にはとても見えない。 だけど堂々とした立ち振る舞いや仕草からは貫禄を感じるし、身に纏う細いストライプのスーツだって正確な価値は分からないがいかにも高級そうだ。 仕事終わりとは思えない隙の無さと、漂う大人の色気とやらに緊張が走る。 「睦人くん、そんなに姿勢を正さなくても大丈夫だよ」 「あっ…す、すみません。つい」 「有紀」 顔を覗き込むように微笑まれて、その笑顔は本心なのか?怪しい…、なんて失礼な事を考えていると、渥が有紀の名前を呼んだ。 「なにー?」 「睦人と席、変わったら?緊張してる」 渥が食事のメニュー表を俺の父親の前に差し出しながらそんなことを言った。 有紀はすぐに俺の固い表情を見ると、いつもの笑顔で立ち上がる。 「リクこーたい!父さん無駄に顔がいいから緊張しちゃうよねー?」 「あ…え、いいよ。俺はここで」 「だーめ!交代交代!」 有紀に無理矢理席を立たされて俺は有紀が座っていた方へ。 俺が居た椅子には有紀が座って、その一連の様子を見ていた親父さんが俺の父親に苦笑いを向けた。 「私はそんなに危険人物ですか?」 「危なくはないけど、有くんの気持ちも分かるなあ。恭介くん女泣かせな雰囲気あるし」 同感だけど、ちょっと待て。俺に対して女泣かせな雰囲気は微塵も関係ない。 のほほんと微笑み返す父親に親父さんは肩をすくめる。そんな姿さえもスマートで様になった。父親の言っていた「昔は仲が良かった」も、あながち間違いではないらしい。 場が和むなか何となく渥の方に目を向けると、渥は笑い合う父親達の方を静かに眺めているようだった。 しかし、すぐに興味を無くしたようにメニューへ目を落とす。 ――そういえば渥、みんなが来てから親父さんとだけ一言も会話してない…? たまたまかも知れないが、その事実に気付いてしまうと無性に胸がそわそわした。

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