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「馬鹿って…もっと他にないわけ?」
「へ、変態!」
「いやいや、お前…」
嘘笑いじゃないのはすぐ分かった。俺を押し倒したまま真上で笑う渥に視線が持っていかれる。
「睦人は昔から暴言のレパートリー少な過ぎ」
「…そんなことないだろ。人並みにはある」
「人並みにあってそれか」
ふふんと笑う。何やら機嫌が良さそうな気がする。夕食の席でも別に機嫌が悪かったわけじゃないし、積極的に俺の父親と話をしていたけど親父さんと話していないのが気になってあまり良くない雰囲気を勝手に感じていた。だから余計にか。
「で?話ってなに?」
ジーと見つめてくる俺に気付いたのか、口元に悪い笑みを浮かべて渥が話を切り出した。
「今!?この状態で!?」
「どんな状態だって話はできるだろ」
「でっ、できるけど、できない!離れろ!」
「じゃあ聞くのやめる」
――はあ??
気の抜けた声を上げそうになって直前で飲み込む。こんなところで有紀みたいなこと言って、兄弟の血を感じさせてくれなくてもいいのに。
「言うの?言わないの?」
「……渥は…なんであん時俺ん家に来たんだよ」
腹を括って息を吸ってから尋ねた。予想外の質問だったのか、渥はゆっくりと口角を元に戻す。分かってるだろうに「あん時って?」と質問が返ってきた。
「俺がヒートだって…ケーイチから聞いた時だよ」
今迄退ける気ゼロだったくせに、渥は脱力感を感じるような動きで体を離した。
「そんなの聞いてどうするんだ」
「教えて欲しいんだ。ずっと考えてたけど…分かんなくて、なんでなのか…渥!」
俺の言葉を最後まで聞く前にソファーから立ち去ろうとする渥の腕を掴む。
「だってお前Ω嫌いなんだろ?なのになんでわざわざΩで、しかもヒート真っ只中の俺に会いに来るなんて事したんだよ」
「………」
「俺のフェロモンに充てられることなんて百も承知だったろ。俺のこと拒絶した癖に、話し掛けてきたり、さっきみたいにキス、してきたり…俺お前の考えてること全然分かんねえよ!…っ…少しでいいから、教えてほしいんだ」
腕を掴む手に力がこもる。握り締め過ぎてるのか少しだけ震えた。
渥と会話するときはいつも身構える。どんな言葉が飛んで来るのか、どんな表情を作るのか、いつも予想の斜め上からの発言ばかりで気が休まらない。
だけど渥の返事を待つ。律儀に。あるいは健気に。
今の質問に俺が安らぎを覚えるような回答が得られないのはわかっている。
昔は渥の口から俺を傷付ける言葉なんて出てこなかったのに、なんて考えて一瞬だけ苦しくなった。
…こいつの目に、俺は今どんな風に映ってるんだろう。
「俺の幼馴染は睦人だけだよ」
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