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最初よく意味がわからなかった。
手厳しい言葉を覚悟の上で尋ねた質問の回答としては的外れなのではとも思った程だ。渥の言葉に目を丸くする。
「幼馴染…て、そりゃ…そうだろ」
「それが答え」
「?…悪いけどちょっと意味が…」
「とにかく一回その痛いくらい掴んでくる手を離せ。どこにも行かないから」
「あっ…、ごめん」
掴んだままだった手をパッと離した。見ると掴んでいた箇所がほんのり赤い。全く顔色を変えないからなんともないのかと思っていたが、随分強く握ってしまっていたらしい。
渥は言葉通り俺の元から離れることはなく隣に座り込んだ。二人分の重みにソファーが沈む。
「…お前さっき自分がどんな顔してたか分かってる?」
「顔?」
「ちなみにその顔、睦人がこっちに越して来てから、もう何度目ってくらい見てるんだけど」
「そんないつもと違う顔してないだろ」
よく見てみろよ、と口には出さずに渥の方を見つめると、軽く眉を顰めて溜息をついた。
「不安で泣きそうだって顔。縋り付くのも最初だけかと思ったのに、なんなのほんと」
「泣きそう…」
そう言われたら確かに泣きそうだったかもしれない。不安だった。不安な感情は確か佳威にもバレていた。俺、顔に出すぎなのか?
でも渥の場合は、渥が俺に冷たく当たるからショックで意味が分かんなくて脆い部分が曝け出されてしまう。突然態度を変えられても理解できないんだから、親友の関係に縋り付いてしまうのも仕方ないじゃないか。大半が渥のせいだ。
「最初にも言った気がするけど、お前が俺に執着する理由は俺がαだからだ」
「っ…だから、それは違うって!言おうと思ってたけど、お前…渥は自意識過剰だと思うよ!」
「…なに?」
自意識過剰、のフレーズにピクリと片方の眉尻を上げる。俺の方へと顔を向け、見慣れた筈の芸術品のような顔立ちに一瞬たじろぐ。
しかし、負けてたまるかと体を渥の方へと向け真正面から直視した。
「俺はお前がαだろうがβだろうが、たとえΩだったとしても執着してる!……執着って言葉が悪いな。要は好きなんだよ!俺はお前のことが好きだ」
「………は?」
「渥も有紀も俺にとっては大切な、世界で二人だけの幼馴染なんだ。二人とも大好きだけど、有紀は年下だしどうしても弟みたいな感じがする。でも渥は…親友なんだ。俺にとって。親友ってピッタリくるのは渥だけなんだよ」
「………」
渥はただ俺の隣で、俺の言葉を静かに聞いていた。
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