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クセが強いというのにはもちろん理由がある。二つほど。
「睦人くんは恋人、居るんですか?」
一つ目は、会話の始まりに脈絡がなく突然話題が変わる。
「いない、です」
「過去にも?」
「…お恥ずかしながら」
「じゃあ童貞?それとも本命は作らない主義?」
「くっ……ぜ、前者です」
「そんな正直に答えなくてもいいのに。まあそうだと思いました」
「!」
はは、と笑う灰崎さん。
そして二つ目がこの男、物腰の柔らかそうな喋り方のわりにサラリと毒を吐くのだ。
先ほどのお姉さん達の件もそうだが、思ったことを口に出してしまう所があるらしい。よく言えば裏がない。悪く言えば……悪く言うのはやめとこう。
テントの中には俺と灰崎さんしかおらず、灰崎さんは二つ並んだ内の一つのパイプ椅子へと腰掛ける。俺も同じように椅子を引いて座った。
「作らないんですか?恋人」
「別に作らないわけじゃないですけど…」
「作るなら早いに越したことはないですよ。特にあの学校はよりどりみどりだし、言葉は悪いけど選び放題です」
「…灰崎さんって、もしかしてうちのOBなんですか?」
「当たり前でしょう。よっぽどの理由がない限りほとんどのΩはあそこに通いますよ。睦人くんも例外なく通ってるじゃないですか」
「まあ、…や、でも俺は父親の転勤で…………今なんて?」
聞き間違いか?
「Ωの件?睦人くんΩなんですよね?」
「な!?なん、なんで…は!?」
「ああ、安心してください。私もこう見えて実はΩなんで」
「オッ…ええ!?」
「よく驚きますねえ。鳩が豆鉄砲食らったみたいで、すこし笑えます」
クスクス笑いが似合うお上品な顔立ちの灰崎さんをつねりたくなりながら、鳩が豆鉄砲を食らった顔のまま見返す。
「証拠というほどのものではありませんが、ほら」
灰崎さんはスーツの後ろ首の部分をズラして僅かに隙間を作る。
見ろ、と言うことだと察して覗き込むと白く細い項の部分にハッキリとした噛み跡が見えた。通常ならば数日で消えてしまうであろう跡。
だけどΩがαに噛み付かれた時にだけは、体に噛み跡が残る。
つまりそれはαと番契約を交わしたΩだ、という紛れも無い証拠だった。
写真で見たことはあるが間近で見たのはこれが初めてだ
「噛み跡…」
「もう数年は前になります。ちなみに睦人くんがΩだということは黒澤から聞きました」
「え」
「さらに付け加えれば黒澤は有紀くんから聞いたようですよ」
「……あいつ」
「随分嬉しそうに話して来たみたいだから、怒らないであげてくださいね」
それは暗に「チクったことチクるなよ」と釘を刺されている気がした。というか多分刺されたよな、これ。
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