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まあそれについてはこの際置いておくとして。
灰崎さんがΩだとすると俺は生まれて初めて男性Ωと、こんなにも長々と話をしていることになる。
もちろん今の学校にも男性のΩは存在している。
転入初期の頃に食堂で出くわしたαとΩの集団。顔なんて覚えてないがΩ側に男子生徒が二人くらい居たのだ。
ただあの集団には近寄りたくなくて、話し掛ける気にすらならなかった。
「…やっぱり…Ωって綺麗な人が多いのかな…」
「なるほど。褒め言葉なんでしょうけど、その類のものは散々言われてきたので今更なんの感情も湧き出ません」
「あ!?すみません!」
灰崎さんを見つめながら、頭で思っていることを口に出していた。今更意味がないと分かりつつ片手で口元を抑える。慌てる俺を見て灰崎さんは目元を緩めた。
「気になることあればお伺いします」
「…?」
「悩みがあればの話ですけど」
癖のある細い栗色の髪の毛が顔の動きに合わせて揺れる。こちらを向く灰崎さんの表情は優しい。
だが俺はここに来て突然親しみ易さ溢れるお兄さん、みたいな顔をする灰崎さんに一瞬戸惑った。
もしかして渥の親父さんが気を利かせて灰崎さんをここに寄越したとか、ない?ありそうだよな?
だとしたら今ここで言ったことが全て筒抜けになったりしたりして…
迷いが顔に出てしまったのか灰崎さんが笑う。
「誰にも言いませんよ。言って欲しいなら喜んで言いますから安心してください」
「!、言わないでいいです!」
反射的に言葉を返す。灰崎さんは返事の代わりに口角を少しだけ上げた。
灰崎さんって見た目に反してちょっとSっぽいとこある。
渥の親父さんに付いて仕事してるくらいだしやり手なのは間違いない。頭の回転も早そうだ。隙がないというか、Ωというよりαに近い、そんな印象を受ける。…じゃなくて、何を聞こう。
こういう時って咄嗟には思い付かないんだよな。変な質問をして「睦人くん?ふざけてるんですか?」なんて言われたくないし、かと言ってこんなチャンスなかなか無いから聞かないと言う選択肢は無しだ。
何か、何かないかな…今後の為になりそうなこと…
皺一つないスーツを見にまとった灰崎さんの頭から机の下に隠れる腰の辺りまで視線を下ろして、ハッとした。
「あの…!」
「はい」
「どうしたらっ、こんな大手に就職できるんですか!?」
これだ!と自信を持ってした質問だったが、俺の質問に目の前の彼はゆっくりと三度瞬きをした。
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