248 / 289
20
灰崎さんの第一声は「一瞬、睦人くんが最近きたインターン生に見えた」だった。
「インターン生?」
「いえ、なんでもないです。構いませんけど、それ私じゃなくてもいい質問じゃないですか?」
「そんなことないですよ!だって灰崎さんはΩなのに…Ωは出世が難しいって言うじゃないですか。俺たちにはヒートもあるし、いざという時に重要な仕事を任せるのは…みたいなとこあるんですよね?」
「まあないとは言いませんが、方法は色々ありますよ。と言っても努力するか利用するか、この二つにつきますが」
親指と人差し指を折る。
「努力」と「利用」?
「Ωだからと仕事を振ってもらえないなら、Ωだとバレないように努力すればいい。抑制剤を徹底して上手く使ったり、番を作ってフェロモンがパートナーにだけ意味を成すようにしたり。多方面で努力が必要ですが、αのように振る舞うのも一つの手です」
「…だから灰崎さんはαっぽいのか」
「そちらの方がよっぽど嬉しい褒め言葉ですね。αみたい、男が一度は言われてみたい言葉ナンバー1だ。キャバ嬢は多用してくれます」
「キャバ嬢」
どうしよう。灰崎さんの口からキャバ嬢なんて言葉ちょっと聞きたくなかったぞ。
テレビでたまに見る煌びやかで華やかな世界。夜の蝶。この顔で夜の世界に通ってるのか?振れ幅広すぎじゃないか、この人。
「人を見た目で判断すると痛い目に合いますよ」
「俺まだ何も言ってませんよね…?」
「目で語られました」
「っ…ちなみにもう一つの手は?」
目でバレるってどういうことだよ、と慄きつつ即座に話の修正を図る俺。
灰崎さんも分かっているのか余計な事は言われず頷いた。
「もう一つは、Ωだということを存分に利用する事です」
「それ。体験談ですか」
後から聞こえてきた台詞。これは俺じゃない。
トゲを感じるニュアンスの言葉と同時に、テントの端から顔を出した人物が居た。
「…渥…?」
珍しく前髪を上げていつも以上に大人っぽい雰囲気で登場したのは渥だ。
灰崎さんとは違いスーツのジャケットは着ておらず、半袖のYシャツに細いストライプが入った黒のスラックスを履いている。
このテントは少しでも中に冷気がこもる様にか、前方以外は白い素材で囲まれている。話に夢中だった事もあり、人が近付いて来ていることに気付かなかった。
「やめてくれます?睦人に変なこと吹き込むの」
「渥くん、お疲れ様です。また人聞きの悪いことを言いますね」
「真実でしょう?」
にこり、と笑う。
渥の笑顔が作ったものであることは丸分かりだった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!