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俺の勘違いでなければ流れているのは、居心地の悪い剣呑な雰囲気。 一応灰崎さんって渥からすれば父親の会社の人間だ。そんな相手に冷ややかな対応をとって大丈夫かと心配になる。 …もしや「親の会社は俺の会社も同然。したがって社員も俺の社員」的なボンボン思考――なわけないか。渥に限って。こいつはそんな奴じゃない。 「珍しくあの人の傍に居ないと思ったらこんな所に居たんですね。ここは有紀の担当場所では?」 「有紀くんは急遽イベントの方に回ることになったんです。もう少ししたら戻って来るでしょうし、そんな怖い顔をしなくても戻ってきたら去りますよ」 灰崎さんも渥の作り笑いに気付いているらしい。怖い顔、には思えないけど確かに空気は良くない。 「………」 俺はというと昨日の今日で、まあまあな気まずさを感じていた。 あんなにハッキリ言われてしまって、平然として居られる方が凄いと思う。むしろ渥こそよく俺が居ると分かって顔を出せたな。 ていうかなんでここに来るんだ。心臓に毛でも生えてんのかよ。 なんて思いつつ、あからさまに渥から顔を背けることもできず、なおかつ無駄に平穏主義な俺はこの二人の醸し出す空気に耐えられなかった。 「お二人はアレですか…?喧嘩するほど仲が良いとかいうあの?」 気付けばそう半笑いで口から漏れ出ていた。 どう見ても仲が良いようには思えないし、完全に見当違いだということも分かってる。 なんなら下手に口を挟まないほうがいいことも分かってはいるが、渥のあの変な作り笑いが嫌だった。 あれならまだ無表情でいてくれた方がマシだ。 しかしながら案の定、空気が凍る。 渥の顔から作り笑いが消えた。 「能天気…」 しかし能面のような無表情になったわけではなく、目を細めて呆れた顔を作る。 人間味が感じられる表情に変わり、俺はホッと肩の力が抜けるのを感じた。 「決して喧嘩をしてるわけではないんですけどね」 灰崎さんも隣で笑ってそう言ったが、渥は肯定も否定もしない。そのかわり俺の方を見たまま口を開いた。 「睦人。この人を見本にするなよ」 「…?…なんでまた」 「おすすめはしないな」 本人を目の前に「こいつみたいになるな」とは、余程嫌いなのか。横に座る灰崎さんを見ると、口元は笑っているが目元がこれっぽっちも笑っていなかった。 「…睦人くんは渥くんと昔からの幼馴染なんですよね?彼は昔からこんなにひねくれていたんですか?」 「あ…いえ、昔はこんな感じじゃ…」 「へえ。つまりもっと可愛げがあったと」 「そういう、聞き方をされますと、あの」 いやいやいや…板挟み!すっごい板挟み! やっぱ口なんて挟むんじゃなかった。 二人して俺を挟んでピリピリするとか勘弁してくれ。 「あー、と、渥…」 助けを求める相手じゃないのかも知れないが、この二人だと関係の長い渥の方に自然と目線が向く。 しかし、そこに居たのは俺の知らない渥だった。

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