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それはもう美しく笑ってくれたからきっと明解な答えが返ってくると想像していた俺だったが、予想の斜め上を行く返事に固まった。 「そんな気しません?もう離れて何年ですか?…とは言っても本当に運命の番かどうかは本人たちにしか分からない事ですし、大体は出会った瞬間に分かるものなんですけど」 「――」 「でもお二人が出会ったのは生まれて間もない時期なんですよね?そういった場合はどうなるんでしょう。運命に関しては未だ科学的にも研究が進んでいないので、私にも詳しい事は分かりませんが」 「……」 「まあ、極端な話、運命と運命じゃないαとそれぞれ肌を交わしてみれば分かる筈ですよ。違和感?て言うんですか。もちろん倫理的にはオススメはしません。気持ち悪くはないと思いますけどね」 「……」 「…聞いてます?睦人くん」 「……、…なんでしたっけ?」 「分かりやすく動揺しますね」 時間が止まっていた俺の目の前で手を振った灰崎さんがクスリと笑う…って全くもって笑い事じゃないぞソレ?! 「そ、りゃ動揺するに決まってるじゃないですか!ていうかいくらなんでも渥が俺の運命っていうのはあり得ないと思いますよ…!?だって普通、運命の相手にあんな冷たくします!?絶対しないでしょ!!その、しちゃった時も次の日傍に居なかったし…どっ」 「ど?……うん。とりあえず一旦落ち着きましょうか。睦人くん」 「俺は充分落ち着いてま…」 「あくまで憶測ですよ。そんなに焦って否定しなくても大丈夫ですから」 「…………憶、測」 「憶測です。言ってしまえば適当です」 適当という単語にホッとしたような、はたまたほんのり残念なような、言葉にし難い感情が押し寄せる。 そもそもなんで灰崎さんは運命の番にそんなに詳しいんですか、と尋ねようとした時「しっ」と人差し指を顔の前に持って来て、口を閉じるように指示された。 またもや真剣な表情を作る灰崎さんの顔を見つめながら口を閉じる。 何事だ。 不審に思いつつ挙動を見守っていると、灰崎さんはスッ…と胸ポケットから薄い携帯を取り出した。 そして、俺と見つめ合ったままタンと画面を一押しし、流れるように耳に押し当てた。 「はい、灰崎です。…ああ、はい。はい、承知致しました。早急に」 なにかと思えば… 通話はあっという間だった。 携帯を耳から離すと再び画面をタップし胸ポケットに戻す。 一度視線を落とした灰崎さんだったが、再びこちらへと顔を向けた。 「睦人くん。黒澤からの呼び出しが急ぎの案件がだったようで…申し訳ありませんが、もうこちらを離れてもよろしいでしょうか」 「こっ…んのタイミングで!?」

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