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「すみません。でもよくよく考えたらこんな大きなテント二人では片付けられませんし、会場に居る業者が終わるのを待ちましょう。睦人くんはアンケート用紙と筆記用具をあそこの段ボールに適当にまとめて、有紀くんが来るのを待っていてください。運ぶ場所は彼が分かっていると思うので。あとこれ私の名刺です。では」 「え!?あの、ちょっ……」 よろしいかと聞いておきながら俺の返答を聞くつもりはないらしい。 灰崎さんは丁寧かつ口を挟む隙間もないスピードで喋り終えると、素早く取り出した名刺を俺に手渡しテントを出て行ってしまう。 しかしその直後、呆気にとられていた俺の耳へ、テントの裏側から出て行ったはずの灰崎さんの声が飛び込んできた。 「あれ、有紀くん?もう終わった……大丈夫ですか?」 予想外の出来事だったようで聞こえてきたのは驚きの声だったが、途中から心配そうな声に変わる。 「有紀?」 有紀が居ることにも驚いたが、それよりも何かあったのかとテントを飛び出した。 裏へ回ると有紀も灰崎さんを見て驚いた顔をしているし、出るところと戻るところでお互いバッタリ出くわしたのか。 だが、それ以外に変わったところは見受けられない。 「大丈夫って何がー?いきなり出てくるからビックリした!」 「……私の気のせいでした?」 「気のせいじゃない?……ん!リク!ごめんね、午後も一緒に居られなくて…大丈夫だった?変な人に絡まれてない?無事?」 「お、おお。質問多いな。大丈夫だよ。何も問題なかったしこの通り無事だ。有紀もおつかれ」 「よかった〜」 「有紀くん。来たばかりで申し訳ないんだけど、こちらももう終わってるから睦人くんとダンボール、朝言った場所にお願いできますか?」 「はーい。リョーカイでーす」 にへら。 いつもと変わらないゆるい空気感を醸し出して笑う有紀に、灰崎さんも笑みを返し、その後何故か俺の方へと一瞬視線を寄越す。 何かを言いたげではあったが電話で催促があったからなのか、喋り出すことはなく早歩きでビルの中へと消えて行った。 そして、残された俺と有紀に一瞬だけ無言の時間が流れる。 …ちなみにさっきの、聞こえたわけじゃないよな。 「今、来たのか?」 「そー。ついさっき!会場(あっち)はね、もう手が要らないって言われたから走って来たー」 褒めて褒めてと背後にあるはずのない尻尾が左右にぶんぶんと振られている。やはりいつも通りだ。 走った割には汗一つかいてないけど、もし聞いてたらこんな普通じゃいられないよな?俺が言うのもなんだけど。 だってさっきのまあまあヤバイ内容だっただろ。 運命の番部分は真相が分からないにしても、そのあと俺何を口走ったっけ?狼狽えててあんまり覚えてない。 …けど、まあ…聞かれてないならいいんだ。 「えらいぞ有紀。じゃあアンケート用紙まとめるから、ダンボール運ぶの手伝ってくれ」 今日もバッチリ決まった金髪の上からポンと手のひらを置く。 有紀は嬉しそうに笑って「りょーかーい」と間延びする返事をした。

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