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まず俺が自ら掘り起こしてしまった爆弾といえば、この安定した笑顔を向けてくるケーイチだろう。 夏祭り。 佳威の実家で見た打ち上げ花火はとても綺麗だった。気がする。 記憶が曖昧なのはそれ以上に鮮明に残っている映像があるからだ。 あの日以来、休みが明けるまで連絡は取っていなかった。なんとなく、しない方がいい気がして意識的に我慢した。 当たり前かも知れないが、向こうからもなんの連絡もなかった。 そんなケーイチだったが、休み明けに登校してみると案外普通に接してくれるので、あの件には触れないスタイルでいくのかと思っていたのだが… 「なに(こえ)ー発言してんだ、お前は」 「何が?ただこの3人の中だったら一番泣いてる姿がイメージできるよねって意味だけど」 「…俺、二人の前で泣いたことあったっけ」 独り言のような呟きに、二人は視線で反応しただけだった。 「つーかなんだよ、ノンアルコールバーって。無駄に洒落ぶってねえ?誰が考えたんだ」 「案を出してくれたのは佐藤さんだよ。廊下側の席の今まさに佳威に熱い視線送ってる女の子」 「ああ?」 「睦人なんてナイスアイデアばりにきらきらした目で俺のこと見てたし、悪いネーミングではないんじゃない?」 「俺?…ま、まあ確かに俺じゃあなかなか思い付かないなって関心はしてたけど…」 「睦人お前……なんでもない」 「ちょっと待て!そんな哀れむような目で…!俺にセンスがないのは承知の上だけど、今回のはみんな賛成してたから!」 「そう?睦人だけ感動すらしてたように見えたけど。俺だけかな?」 あれがセンスあるのかよ…と言わんばかりの視線を向けられ、言い訳を募るがうまくいかない。 いつもならここでフォローを入れてくれるはずのケーイチなのだが、今はフォローどころか煽ってくる始末。 ぐっ、と言葉に詰まるとようやく「冗談冗談」と少し意地悪そうに笑ってくれた。 「バー感覚だけどノンアルコール強調して健全でしょ」 「…ま、決まったことに文句つけても意味ねえか。そもそも演劇じゃ無けりゃなんでもいんだよ俺は」 「だよね。特に寝てた奴には口出す権利なしだよね」 「………」 「お前、機嫌悪ぃの?」 夏休み明け。 ケーイチのたまに見せる黒い部分の割合が多くなっていた。

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