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あまりにも自信たっぷりに言うものだから、笑うところではないのについ笑ってしまった。 よく対等に言い合いをしているが、だいたい佳威がチクリと痛いところを突かれてばかりいる気がしたからだ。 「佳威、ケーイチに口で勝てるのか?」 「んなの勝てるに決まってんだろ。まあ、あいつの場合、負かすより負けてやんなきゃって思わせた方が楽かもな。睦人だし」 「…睦人だし?睦人だしってどういう意味だ」 「泣き顔似合うとか言われてたじゃねえか。最悪泣き落としでいける」 「げっ、嫌だよそんなの。女の子じゃあるまいし」 「ちなみに俺も泣かれると弱い」 「ってことは佳威と意見の相違があった場合は泣けばいいってことか。なるほどな、いいこと聞いた」 「でも睦人は“女の子”じゃねえんだろ?」 「うっ」 言い返せずに言葉に詰まる。そんな俺を見て佳威は笑いながら頭を撫でてきた。その手はいつもと違って、なんだか少しぎこちなかった。 「まあ喧嘩じゃねえならいいけどよ」 「…うん。喧嘩なんてしてない」 「ずっと難しい顔してると、疲れるぞ」 「………」 俺はそんなに難しい顔ばかりしてたんだろうか。元気がないように思われてたなんて。 ただそう言われて今日初めて笑ったことに気付いた。 だからわざわざ――…? 頭を撫でる手つきが優しい。同い年の男友達に撫でられてるのに、なんでこんなにも心地いいんだろう。 …今まではスキンシップが好きなんだなってくらいにしか思ってなかったけど、もしかしたらケーイチはこういうのも見たくないかも知れないんだよな。 見上げた佳威の表情からは、心から気にかけてくれているのが伝わってくる。目が合うと目元を緩めてくれた。 「大丈夫か?」 「…大丈夫。俺は全然」 佳威がそんな風に思ってたんならケーイチだって同じような事を思っているかもしれない。俺の辛気臭い態度が原因で。 これじゃまるで俺がケーイチのことで傷付いてるみたいだ。違う。落ち込んでるだいたいの原因は渥だし、俺は傷付いてなんかないし、傷付いていいのは俺じゃない。 鬱蒼とした気分を振り払い、俺は心配してくれる友人を見上げ、にっと笑ってみせた。 「文化祭、楽しみだな」 俺の笑顔を見て、頭から撫でていた手が降りて行く。離す間際に指先が一瞬だけ項に触れた。 ふわっと後ろ髪を上げるように指先も離れて、佳威は「めんどくせー」と嫌そうに笑った。

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