262 / 289

07

「食った食った〜!」 「相変わらずの早食いだったね」 「お前らが遅いだけだろ」 「俺も?てか俺もケーイチも普通だろ。絶対佳威のスピードがすごいだけ…」 久しぶりに食堂で昼食を食べて、教室に戻る道中会話の中でサラッと一括りにされたことに歩きながら振り返った時。 丁度廊下の角を曲がった先で、何かに強くぶつかった。 「だっ…!?」 「あっ睦人」 前方から衝撃を受けて体が後ろへ飛びそうになる。衝撃の強さからして恐らく相手は急いでいたのか。情けないが、予想もしない力が加わると構えていなかった分どうしようもない。 「わー!大丈夫!?」 尻餅覚悟でよろけた俺の腕を、聞き慣れた声と共に前から強く捕まれた。 この声は、と見上げればキラキラした金髪がよく似合う幼馴染の姿。 驚いた顔をした相手と目が合うと、パッと掴んでいた手を躊躇なく離されてしまった。 「わっ、バカバカ」 このタイミングで離す奴がいるか! 掴んでくれた事で完全に気を抜いていた。まさか離されるとは思わず慌てて立て直しを図るが、結局背後に位置していた佳威に助けて貰うこととなった。ヒョロ過ぎるぞ、俺… 「大丈夫か?」 「佳威、こそ大丈夫か!?」 背中を支えて貰って倒れる事は免れたが、慌てて跳びのき謝罪を口にする。佳威はなんともないようで「大丈夫に決まってるだろ」といつも通り男前な返事。 「ほんとごめん。…有紀!なんで離すんだよ!」 「ごめぇん、なんか…つい。思わず?」 「思わずで手え離すやつがいるか!そりゃ前見てなかった俺が悪いけど、それにしたってお前…」 「ごめんってー!俺も今度からは前見て歩くからぁ!リクこそさっきみたいにおしゃべりに夢中で跳ね飛ばされないよう気を付けてねー。じゃね!」 軽い反省を述べて有紀は俺達の横をすり抜けて歩いて行ってしまった。 それはもう驚くほどにあっさりと。 「じゃね…って…」 一応夏休み明けで初めて会ったんだけど。 もっと「元気してたか?」とか「有紀んとこは文化祭なにすんの?」とか話すことは、いくらでもあるってのに。 「なんだありゃ」 「急いでたんじゃない?」 いつもの有紀を知っている佳威とケーイチも変に思ったようで、去っていく有紀の後ろ姿に顔を合わせている。 俺も同じように背中を追って、もや…と胸のあたりに気持ち悪さを感じていた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!