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13「A」◎

そんな楽しいとは言えない学園生活の中に現れた幼馴染みの存在。出会った瞬間の衝撃。鼓動の正体を知りたくないと思う反面、きっとそうだという確信もあった。 だから選んだのは「誰だ、お前」の予防策。 睦人がどういうスタンスでこの学園で過ごしているのか分からなかったのだ。 いつからこの学園に? 自分のバースは伝えてるのか? 確信通りだとすれば、親しげに話す姿を見られることが得策だとは思えなかった。 渥は毎日朝礼から終礼まで学校に居られる事が少ない。万が一、睦人が悪意を持つ誰かに何かされたとしても、守ってやることができない。 何かあってからでは遅いのだ。 睦人だけは指一本でさえも傷付けられたくない。 ――あの日の戸惑った顔は今でもたまに夢に見る。 夢の中での渥は「嘘だよ、ごめん。久しぶりだな」と笑い掛け、睦人が安心したように顔を綻ばせる。 そんな理想の再会はもうできない。 自らが選んだ結果だ。責任を持つしかない。 きっと睦人の事だから隙を見て何度も話しかけてこようとチャレンジしてくるだろう。 本当の事を話したところで「大丈夫だよ、俺も男だ。そんな奴ら気にしないって」と気丈に振る舞うに決まってる。 しかし、この学校の生徒達は異常だ。 αが多く集まって来ていることもあり、背後に黒い噂や政治的に力のある祖父母を持つ生徒も少なくない。 気に入ったΩを囲うα達を黙認している教師などはもちろん、当てにならない。 危ない橋を渡らせない為に先手を打って家に行き、「お前と話すのはこれが最後だ」と忠告をした。 幼馴染みは変わってしまった。冷たくなった。もう仲良くなれないんだと、可哀想だがそう思って貰う為に敢えて冷たく接した。 渥は、睦人にとって自分と友達でいることはそこまで重要ではないと思っていたのだ。 『なんでそんなに俺にこだわるんだ。お前今日ケーイチと仲良くしてただろ』 幸いにも既にクラス委員長と仲良くなっているようだった。 クラス委員長である渓一と連むつもりなら、必然的に光田佳威とも行動を共にすることになるはず。 光田は極道の世界でも名の知れた光田組組長の息子だ。 優れたルックスや溢れ出る無骨な色気に狙う者も多いが、背後にある光田組という極道の家系は一般的に恐怖の対象となるのだろう。 唯一βの幼馴染みとは仲が良いと有名で、睦人が傍に居たところで珍しがられこそすれ、違和感はない。 そう簡単に手出しはされないだろう。 自分が頼りにならない今、睦人にとって彼らの隣に居ることがこの学園で一番安全な場所だと感じた。

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