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「明日、暇か?」
文化祭の準備もまだまだ本格的でない普段通りの学校生活の中で、有紀の行動に異変を感じていた矢先のことだった。
気にはなるもののわざわざ問いただすのも違う気がして、どうしようかなと考えていた金曜日の放課後。
冒頭の一言を佳威が思い出したように口にした。
「明日は暇だけど、どうした?」
「丸屋の冷やしつけ麺が今週までだった気がするから最後に行こうかと思って。お前ら暇なら付き合えよ」
「丸屋! 行く行く」
丸屋とは学校の近くにあるラーメン屋の名前だ。以前、放課後に佳威とケーイチの三人で食べに行った事もある。
久しぶりだし楽しみだなーと呑気にワクワクしているとケーイチからまさかの発言が飛び出した。
「ごめん。俺、明日は用事あるから二人で行ってきてくれない?」
ケーイチの申し訳なさそうな顔。
二人でって…ケーイチ抜きで行くって事? 佳威と二人で? でもそれって……
「あ、じゃあ日曜日は? 日曜も俺暇だし、なんなら今からでも」
というかだいたい毎日暇だ。
有紀が俺の周りをちょろちょろしてないと、こんなにも暇なのかと最近気付いたところである。
「今日も日曜日も勉強したくて。月曜日に数学と化学の小テストあるでしょ? 二人は忘れてるかも知れないけど」
「あ」
「飯食うだけだぞ? 出て来れねえのか?」
小テストの存在をすっかり忘れていた俺が絶望の声を上げている横で、佳威が不満そうに聞き返す。
佳威なんて前日にちょっと勉強すれば小テストくらい楽勝なのだろう。
「外に出ると集中力が切れるから無理」
「はあ? お前の集中力そんなもんじゃねえだろ」
「褒めてくれたとこ悪いけど、無理なもんは無理なんだよ。俺が小テストだろうとなんだろうと満点じゃなきゃ気が済まないの知ってるだろ。…じゃ、そういうことで。睦人もまた月曜日ね。また感想教えてよ。あ、食べ過ぎたら駄目だよ?」
佳威の煽りをバッサリと切り捨てると、俺に笑顔を向けてケーイチは足早に教室を出て行ってしまった。
思い返してみれば、確かにケーイチはテスト付近になるとさっさと寮に帰るし、休日も連絡したところで返ってくるのが夜だったりする事も少なくない。
なのでご飯の誘いを断った理由に不自然さはないが、ただ「いいのか?」と思ってしまう。
「あいつ絶対乗ってくると思ったんだけどな。小テストなんかで真面目過ぎんだよ、ほんと」
「まあ…でもそこがケーイチのいいところでもあるし、凄いと思うよ」
小テストだって、佳威の隣にいる為に頑張ってるようなもんなんだよな、きっと。本人には言えないけど。
「とにかく明日だな。十二時前ぐらいで大丈夫か?」
「え! あ、うん。大丈…いや」
「なんだよ。まさか俺と二人は嫌とか言うつもりじゃねえだろうな」
「まさか! そんなわけない」
眉を顰めた佳威に顔をぶんぶん横に振って慌てて否定する。
そんな俺を見て佳威は珍しくにやりと笑った。
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