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「じゃああれか。二人きりで変なことされないか心配してんの?」 「だ、だから別にそういう心配はしてないんだって!」 そう返した言葉に嘘はない。 ただケーイチの気持ちを知っているだけに、佳威と二人でご飯に行って大丈夫なのかという不安はある。 だからケーイチも来れるよう別日を提案したつもりだったが全て却下されてしまった。 ただご飯を食べるだけなら良いって事だったんだろうか。よく分からない。むしろ二人で行く事を勧められたような気もする。 やばい。 俺の恋愛経験の乏しさが顕著に出てないか、これ。 ケーイチも大切だが、佳威も大切な友人という気持ちがあるなか一体なにが正解なのか。数秒悩んでいた俺に佳威が「あ」と声を上げた。 「うるせえだろうけど、あいつも呼ぶか。お前気にしてたんだろ? 最近全然寄って来ないって」 ◇ 「ご馳走様でした!」 「これで今年も食べ納めか」 「残念だよなあ。今日もあちこちで冷やしつけ麺頼まれてたし、ずっと続けてくれたらいいのに」 「一応冷やしだからな。寒くなったら誰も頼まねえんだろ」 当たり前のことを冷静に返されてしまい少し恥ずかしい。炬燵でアイスを食べるのとはまた別ってことか。 「ケーイチは来年までお預けだな。……有紀も絶対この味好きそうなんだけど」 「あー、風邪だっけ? 有紀。あいつも風邪なんて引くんだな」 「昔はよく引いてたよ。俺が風邪引きやすくてさ、風邪ひいてんのに離れないから毎回移ってた」 思い出してつい微笑んでしまう。 佳威は俺の思い出話に想像がついたようで「ベタベタすんの好きそうだもんな」と納得している。 でも懐かしいな。 夏にお風呂から出て髪も乾かさずにクーラーの風を直接浴びる俺に、「髪くらい乾かしたら?風邪ひくよ」とタオルを投げ付けてくる渥。 助言も虚しく案の定、風邪を引いてヒンヒン言う俺の枕元で「大丈夫? くるしい? リクぅ……ぼくが傍に居てあげるからね」といつもと形勢逆転で世話を焼こうとする有紀が居た。 渥もいつも以上に部屋へと顔を覗かせる癖に、そういえばあいつ全然移らなかったなあ。 確か一度だけ移してしまった時があった気がするが、その後からはしっかりマスクをして覗きに来てたし、ほんと可愛げのない奴だ。 …いや、渥のことはいいんだよ。 問題は有紀だ。 佳威の誘いに甘えて有紀にも声を掛けてみたが、既読無視からの約八時間後の深夜に《風邪引いたあ。俺パス。ごめーん》と返事が来た。本当かよ、と疑ってしまった俺は心が狭いのかも知れない。 そして時刻は翌日の正午過ぎ。 この場に居るのは結局、俺と佳威の二人だけ。 予定通り学校近くの丸屋で夏季限定の冷やしつけ麺を堪能し、箸を置いた所だった。

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