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店内は昼時ということもあり満席だ。外を見れば入り口付近で席が空くのを待つ複数の客も居る。
そろそろ出るか、とつけ麺に加え唐揚げと白飯も胃に収めて満足そうな佳威を促し、会計を終えて外に出た。
「いや〜美味かった。佳威はこの後どうするんだ?」
「予定なし。睦人は今日はどっちに帰んの? 実家の方か?」
「今日は寮の方に帰るつもり。冬用の布団か毛布でも買って帰ろうと思ってさ」
夏休みの終わり頃に励んだ人生初のアルバイト代が最近振り込まれていた。
学生の単発バイトにしては、なかなか嬉しい額で一人歓声を上げた程。
この金額が元より高い日給だったのか、コネ入社ならぬコネアルバイターだったからなのかは、契約用紙をちゃんと読んでいなかったので不明である。
ちなみに何故布団かと言うと、有紀について知恵熱が出そうなくらい考えたあの日。
久しぶりに寮の自室へそのまま泊まったが、ベッドはあるが枕と薄っぺらいタオルケットしかない事に気付いてしまった。
今でこそあまり風邪を引くようなことはなくなったが、それでも季節の変わり目には注意が必要なそこそこか弱い俺。
貰ったバイト代から、手が届く範囲で暖かそうな布団を買おうと目論んでいた。
「お前ガリガリだもんな。ちゃんとした布団ねえとすぐ風邪引きそうだし大事な買い物だわ、それは」
「ガリガリは言い過ぎな上にどっからどう見ても標準体型だろ。…まあ、とにかくそういうことで。俺は布団を買いに行く!」
「付き合うぜ」
「布団買うだけだぞ? なんの面白味もない時間になる可能性高いけど」
「俺も暇なんだよ。予定入れさせろ」
「佳威……お前って奴は」
「なんだよ」
「なんでもない」
鞄は持たず携帯と財布のみで、ふらっと寮から出てきた佳威。
オーバーサイズのシャツに黒のパンツ、サンダルというカジュアルな装いでも「イケメンは着飾らなくたって存在感を出せる」と現実を突き付けられた。
「はあ? 褒めたいなら存分に褒めろって」
「うわ!? わ、やめっ」
なんでもないと誤魔化した俺の髪の毛を高身長を活かしてぐしゃぐしゃに掻き回される。夏休みが明けて、佳威からこうして触れてくるのは久しぶりだ。
ふざけあって笑っていた視界の端に、一瞬ド派手な服装が目に入った。
「あれ?」
俺の発言に佳威も手を止め同じ方を向く。乱された前髪の隙間からかろうじて見えたのは恐らく――…
「有紀、だよな?」
「だな。風邪引きにしては元気そうだぞ、ありゃ」
遠くに見えたのは、最近めっきり喋り掛けて来なくなった有紀の姿だった。
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