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「なに、って、言っとくけどお前のストーカー行為とかじゃないからな! 念の為に言っとくけど」
「誰も言ってないだろ。そんなこと」
「言いかねないし」
「そんなことより光田まで連れてこんなところで何やってるんだ。もう一人はどうした」
「ケーイチは勉強して……いいだろ。別に。どうだって」
嫌われてないと分かったものの友達に戻れない宣言をしてきた渥との距離感が掴めない。つい尖った返事をした俺に対して、何も言い返して来ない渥。
「こいつはお前の弟に会いにきたんだよ。けど、部屋番分かんねえって困ってるとこ」
変な空気を作ってしまった俺が内心焦っていると、背後から佳威が助け舟を出してくれた。
「そ、そう。そうなんだ! あの、渥さあ。いいところに来たし、有紀の部屋番号教えて欲しいんだけど」
「有紀? いいけどあいつが今、部屋に居るかは知らないぞ。最近会社にも来ずフラフラしてるみたいだし」
「会社にも? ……ちなみに有紀が居るのは確認済みだ。さっき入って行くの見たから」
「ス」
「違うからな!」
恐らくストーカーと言おうとしたであろう口の動きに被せるよう大きな声で否定すると渥はクッと笑った。
「分かってるよ。なんかあったの」
「……佳威との昼飯にあいつも誘ったんだけど、風邪だからって断られたんだよ。それなのに普通に歩いてるとこ見つけたから気になった。それだけだ」
俺と佳威が二人で有紀に会いに来たことが、余程不自然だったのか珍しく渥は会話を続ける。
笑われた事が悔しいやら、笑ってくれた事が嬉しいやら。
気持ちを切り替えて経緯を伝えると、渥は一度だけ瞬きをした。
「風邪? そういえば昨日も体調不良の連絡があったらしいけど、それか」
「体調不良? 有紀ほんとに具合悪いのか?」
何を言ってるんだこいつは、という目で見られる。自分でも思う。俺は一体何を言ってるんだろう。
「ちが、変な意味じゃなくて! ……あいつ、最近俺に対して素っ気ないんだよ。避けられてるっていうか。だから風邪っていうのも嘘な気がして」
「ふーん……じゃあ嘘だろ」
「……やっぱり? やっぱ、そうだよなあ。俺マジで一体何やらかしたんだろ。それとも有紀自身に何かあったとか……?」
怪訝な表情を見せる渥が足を止めて話を聞いてくれるので、俺の方も気がかりだったことを口にする。
今の渥は一番まともに話を聞いてくれるのか怪しいのに、悩みごとがあると何故か一番相談してしまう。
ケーイチの心が分かった時もそうだった。
無意識に頼り甲斐のあった幼馴染みを思い出しているんだろうか。
まあ一番の悩みはお前自身なんだけどな。
「心当たりないなら、いくら考えても意味ないだろ。放っとけ。無駄なことに光田付き合わせてないで、元の用事に戻ったら?」
「え」
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