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渥はパネルの前に立ったままだった俺に外へ出るよう促してくる。
つい二、三歩下がってしまい後ろを振り返ると、佳威は一歩も動いていなかった。
「お優しい言葉掛けてくれて悪ぃけど、俺は好きでついて来てんだよ。付き合わされてるわけじゃねえ」
「そう? それは失礼」
……佳威と渥って顔を合わせる度に険悪な雰囲気になってない? どちらかと言うと佳威が渥に喧嘩ふっかけてる感じがするけど、どっちもどっちな対応だ。
前回はケーイチが助けてくれたが、板挟み状態は非常に息苦しい。
「有紀が! ……有紀がもし本当に風邪で具合が悪いんだったら心配だし、違うなら違うで避けられてる理由を知りたいし、とにかく有紀に会いたいんだよ。お前だって気になるだろ? 可愛い弟なんだから」
佳威に背を向けマシンガンの如く会話に割り込む。渥が俺へと視線を戻し、眉を寄せた。
「お前は有紀に対して心配性過ぎる」
「だって、心配して何が悪いんだ。……いいよ、俺だけ行ってくるから。有紀の部屋番号、教えてくれ」
「個人情報の漏洩はちょっと」
「漏洩!? 幼馴染みなんだからいいだろ!」
「行くなって言ってんの、分かんない?」
「……は?」
「どうせお前の気を引きたいが為の演技だろ。行ったところでろくな目に合わないのが目に見えてる」
「っ、だったとしても、様子のおかしい幼馴染み放っとけるわけないだろ! ……なんでお前はそんなに冷たいんだ? 俺だけじゃなくて、周りの奴にもそんな冷たいのかよ」
「ちょっと様子がおかしいからって、いちいち気に掛けてやるほど小さい子供じゃないって言ってんの。そもそもαの部屋にΩが一人のこのこ入っていくとか、危機感ないわけ? 前にも言っただろ。昔とは違うんだって」
「そっ……」
それは。
そうかも知れない。けど。
渥の言っていることが正論なだけに、言葉を返すことができない。
俺だって有紀の行動に怯えたこともある。以来二人きりにならないように注意もしている。
だけどさ、有紀は最終的には俺の気持ちを尊重してくれたじゃないか。
なんだかんだ言っても幼馴染みという絆を大事にしてくれてるのかな、なんて思って嬉しかったんだ。
もちろん渥だって俺がΩだから言ってくれてんのかも知れないけど、友達ですらない渥になんでそこまで言われなきゃいけないんだよ。
「睦人、」
「……俺は自分の行動には自分で責任を持つよ。お前の言う通りもう小さい子供じゃないんだし、何か起きたとしてもそれは全部俺の責任だ」
俯いた俺を気にしてか、背後から聞こえた佳威の声と自分の声が重なった。
「だから何があっても渥のせいにはしないし、助けだって要らない。ていうか、渥にっ……俺とは友達でもなんでもないっていう渥に指図される筋合いなんかない……!」
全て言い終えた後にキッと顔を上げ渥の顔を見上げれば、いつもと変わらない無表情。無言で俺を見つめる視線に、負けじと睨み返す。
こんな内輪揉めみたいな所を見せてしまい佳威には本当に申し訳ないが、渥が何かを言うまで顔を背けるつもりはない。
俺は間違ったことは何も言ってない筈だ。
「分かった」
先に顔を背けたのは、渥の方だった。
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