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先程俺が番号が分からず挫折したパネルの前に立ち、慣れた手付きで四桁の番号を押す。それから、以前と同じように指紋認証を済ませると、閉じていた自動ドアが開いた。 「俺の階の二つ下で降りて、エレベーター出たら突き当たりを右に曲がった角部屋」 「有紀?」 「有紀。着いたら直接ドアのインターホン鳴らして。あいつが会うか会わないかは分かんないから」 「あ、うん。……ありがとう、渥」 予想よりもすんなり対応してくれた渥に拍子抜けだった。 素直にお礼を述べれば、「いいえ」と淡白な返事。 「あっ、あと佳威も。ごめんな。折角買い物付き合ってくれるって言ったのに」 「暇つぶしだったし、気にしてねえよ。それより本当に一人で大丈夫か?」 「もちろん。様子見てくるだけだから。今度こそほんとに待っとかなくてい…」 「閉まるぞ」 「い、いいからな! マジで! それじゃ!」 渥の忠告に慌ててエントランスとエレベーターホールへの境界線を飛び越える。 すぐに自動ドアの閉まる音。振り返るとガラス扉の向こうに、渥と佳威がそれぞれこちらに顔を向けていた。 表情のない渥と、眉間に皺を寄せている佳威。対照的な二人だなと頭のどこかで考えながら、俺はエレベーターの昇りボタンを押した。 渥に言われた通り二つ下の階で降り、突き当たりを右に曲がる。しばらく進むと大きな窓のある廊下の端まで辿り着いた。 汚れがあれば目立ちそうな窓はしっかりと掃除が行き届いている。どこもかしこもぴかぴかだ。 床まである窓から下を見下ろし、ぶるっと鳥肌をたてたところで、すぐ側にあったドアまで足を戻した。 ここ、だよな。多分。 少しだけドキドキする心臓を押さえて、顔の近くにあるインターホンを押した。 「――」 出てこない。 10秒待ってもう一度押す。 「……」 やはり出てこない。 このインターホン、向こうからは俺の顔見えてるよな? 見えてないのか? どちらにしろ、残念ながら居るのは分かってるんだよ。 ――居留守を使うということは、それほど俺に会いたくないってことか。 「……なんでだよ」 ここまで来たはいいものの開けてくれないのならばどうしようもない。駄目元で電話でもしてみるかと携帯を取り出そうした時だった。 ガチャンと鍵が開く音。 振り返ると扉が開いていた。 しかし、中から現れたのは有紀ではない。 まるでアイドル雑誌の表紙から飛び出して来たみたいな綺麗な女の子――いや、男の子か?

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