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「!?」
服を着ていたならば女の子だと思っただろう。
だが、現れた彼は下はかろうじて穿いているものの、上半身は裸だった。
手には着ていたであろうシャツと、カバンを持っている。つい先程まで裸でしたと言わんばかりの格好に相手が男だと分かった上でどこを見ていいか分からなくなった。
と、いうか、あの。
「だ、大丈夫?」
「っ……」
誰? なにごと? 俺まさか部屋間違えた? 有紀は? と脳内は混乱したままだったが、飛び出してきた彼の目元に涙が浮かんでいるのを見つけて何よりもまず一番にその言葉が出た。
渥の前でよく泣いてる自分が言うのもなんだが、涙は苦手だ。心配になる。どうしたら泣き止むのかとそればかり考えてしまう。
彼は俺を認識すると、顔をカッと赤くして走り出した。
そのまま俺の肩にぶつかって、走って逃げていく。
バランスを崩す勢いでぶつかられた衝撃と、突然の裸体と、さらに綺麗な人間の涙というトリプルの出来事に脳が追いつかずその場で固まった。
だが、すぐに我に帰ると、閉まっていきそうな扉に慌てて手を掛け止める。
オートロックだった筈だ。
玄関から見ただけでは分からなかったが、角部屋はここしかない。渥が意味のない嘘を教える筈はないと確信を持ち、そのままサッと中へ侵入した。
無機質な音を立てて背後で閉まる扉。
昼間だというのに中は薄暗く、物音がしない。
そして出て行った彼を追う有紀の姿もなかった。
「おーい。有紀ー?」
さすがに居ない訳は無いと靴を脱ぎリビングまで入る。そこでようやくソファーに座り込む家主の姿を見つけた。
先程の彼と同様に下は履いているが上半身は裸だ。
外に出ていた時は帽子をかぶっていた為、分からなかったがいつもならワックスで遊ばせている髪の毛にもやる気が無い。ソファーの上で片膝を抱えて随分とテンションが低そうに見える。
只ならぬ雰囲気を感じて、すぐには傍に近寄らないことにした。
「有紀、居るなら返事しろよ。ていうか、追わなくていいのか? ここに居た子。さっき出て行ったけど……もしかして」
体だけの相手、というやつか?
後で調べてみたが、やはりセックス依存症はすぐに治らないものらしい。というより依存症と名のつくものがそう簡単に治れば苦労はしないか。
「……勝手に入ってこないでよ」
「……そう、だな。ごめん。お邪魔します」
顔と様子だけ見て帰ろうと思っていたが、顔は見えないし様子もおかしいしこのまま帰るわけにもいかず挨拶をする。
したくなる時は不安になった時と言っていた。きっと何かあったんだろう。
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