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普通、壊れた携帯そのままにしとくか? 異様な光景を目にしてしまった気がして僅かに動揺が走る。 「なんなのって……幼馴染だろ」 「ただの幼馴染がなんでそんな心配するの?」 「ただの、なんて言い方やめろよ。少なくとも俺はお前のこと大事に思ってる」 「渥が幼馴染に戻ってくれないから? だから俺だけでもリクの幼馴染で居て欲しいって、渥の代わりにしてるんだ?」 「……はあ? 待て待て。急に何を……有紀。お前を渥の代わりになんて思ってるわけないだろ」 「っ、じゃあなに。俺なんなの…!? リクにとって、俺――」 突然声を荒げ、ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。ああ、駄目だ。ここからじゃ有紀の顔がよく見えない。 「有紀。こっち見ろ」 身の危険をどーのこーのという考えがどこかに消えた。もちろん考えないといけないことではあるが、それよりも天秤の重りがこちらに傾いてしまった。 傍に寄り、目の前に立つ。 俯いたままだった有紀がゆっくり顔を上げた。 久々にこの距離で顔を見た気がする。いつものキラキラエフェクトは感じられず――少し顔周りが痩せたか? 体格だって元からがっしりした方ではないから不健康そうだ。まさか、ちゃんと食べてなかったのでは。……あり得るな。 久しぶりに有紀と視線を合わせ、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を並べた。 「いいか。なにを勘違いしてんのか知らないけど、お前を渥の代わりになんて思ってない。というか、渥の代わりになられても困るぞ、俺は」 有紀が渥みたいになったら、それはもう有紀じゃない。当たり前のことを言うが。 情緒不安定にでもなってるんだろうか。 「お前はさあ、自由奔放でわがままだけど、困ってる人がいたらすぐに動ける格好いい奴だろ? そのくせ嫌なことがあるとくっついて寝たがる寂しがりやで、根っからの甘えた」 「……」 「渥は俺が心配する必要なんてないだろうな。でも有紀のことは変なことに巻き込まれないか心配だし、姿が見えないと何かあったのかなーて気になっちゃうんだよ。今みたいに」 ぽん、と頭に触れる。 手のひらに当たる細めの髪はさらさらだ。 「有紀は俺にとってそんな存在な訳だけど。それだけじゃ駄目か? 渥の代わりだなんて悲しいこと言うなよ。有紀は有紀だからいいんだ」 有紀を渥の代わりになんてどう考えても無理だ。逆も然り。この兄弟は良い意味で違いすぎる。 俺の言葉を黙って聞いていた有紀は、降ろしたままだった俺の片方の手首をそっと掴んだ。 「……やっぱり俺、どうしても欲しい」 「欲しい?」 「ごめんリク」

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