284 / 289
28
普通、壊れた携帯そのままにしとくか?
異様な光景を目にしてしまった気がして僅かに動揺が走る。
「なんなのって……幼馴染だろ」
「ただの幼馴染がなんでそんな心配するの?」
「ただの、なんて言い方やめろよ。少なくとも俺はお前のこと大事に思ってる」
「渥が幼馴染に戻ってくれないから? だから俺だけでもリクの幼馴染で居て欲しいって、渥の代わりにしてるんだ?」
「……はあ? 待て待て。急に何を……有紀。お前を渥の代わりになんて思ってるわけないだろ」
「っ、じゃあなに。俺なんなの…!? リクにとって、俺――」
突然声を荒げ、ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。ああ、駄目だ。ここからじゃ有紀の顔がよく見えない。
「有紀。こっち見ろ」
身の危険をどーのこーのという考えがどこかに消えた。もちろん考えないといけないことではあるが、それよりも天秤の重りがこちらに傾いてしまった。
傍に寄り、目の前に立つ。
俯いたままだった有紀がゆっくり顔を上げた。
久々にこの距離で顔を見た気がする。いつものキラキラエフェクトは感じられず――少し顔周りが痩せたか?
体格だって元からがっしりした方ではないから不健康そうだ。まさか、ちゃんと食べてなかったのでは。……あり得るな。
久しぶりに有紀と視線を合わせ、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を並べた。
「いいか。なにを勘違いしてんのか知らないけど、お前を渥の代わりになんて思ってない。というか、渥の代わりになられても困るぞ、俺は」
有紀が渥みたいになったら、それはもう有紀じゃない。当たり前のことを言うが。
情緒不安定にでもなってるんだろうか。
「お前はさあ、自由奔放でわがままだけど、困ってる人がいたらすぐに動ける格好いい奴だろ? そのくせ嫌なことがあるとくっついて寝たがる寂しがりやで、根っからの甘えた」
「……」
「渥は俺が心配する必要なんてないだろうな。でも有紀のことは変なことに巻き込まれないか心配だし、姿が見えないと何かあったのかなーて気になっちゃうんだよ。今みたいに」
ぽん、と頭に触れる。
手のひらに当たる細めの髪はさらさらだ。
「有紀は俺にとってそんな存在な訳だけど。それだけじゃ駄目か? 渥の代わりだなんて悲しいこと言うなよ。有紀は有紀だからいいんだ」
有紀を渥の代わりになんてどう考えても無理だ。逆も然り。この兄弟は良い意味で違いすぎる。
俺の言葉を黙って聞いていた有紀は、降ろしたままだった俺の片方の手首をそっと掴んだ。
「……やっぱり俺、どうしても欲しい」
「欲しい?」
「ごめんリク」
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!