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随分前に俺達とご飯に行きたいと騒いでいたから大丈夫なんだとばかり思っていたが、本当は嫌だったのか。 有紀の性格と幼馴染みという関係性に少し胡座をかいていたのかもと反省した。 「……俺の行動が無神経だったことは謝る。ごめん。……でも、こういうのは違うだろ。お前俺の嫌がることして嫌われたくないんじゃなかったのか? あれは嘘だったのかよ」 「嫌われたくないに決まってんじゃん。でもねぇ、人の考えって簡単に変わるんだよ」 「ん…!?……ッん、ぅ」 耳元まで来たかと思えば、一旦離れて唇を塞がれた。 香水ではない甘ったるい香りにギュッと目を瞑り顔を背ける。追いかけるように再び唇が合わさり舌が絡みつく。顔を動かせないよう頭を抱え込まれて、濃厚な口付け。 つい先程まで真面目な会話をしていたはずだったのに。 脳が展開についていけない。俺が何か引き金を引いてしまうようなことを言ってしまったんだろうか。該当するシーンが思い付かない。 「やめっ」 「心配性なリクも、ダイスキ。でも子供みたいな心配なんていらない。俺のこともちゃんと対等に見て。男だよ? αだよ? 俺の番になりたいって子、山ほどいるのに」 Tシャツに緩いボトムスという格好で来たのが仇となった。スルリといとも容易く手が服の中に入り込んでくる。 ジワっと体の奥底にある熱が滲み出て来るのが分かった。 「俺と番になろって言ったの覚えてる? 返事は三ヶ月後。次のヒートの時でいいって」 「ん……あ、ああ」 どう抜け出すか高速で考えを巡らせていた俺の頬を有紀の左手が包み、親指が愛おしそうに撫でてくる。 そんな話をした。少し前の話だ。 「やっぱ俺、三ヶ月も待てないみたい」 服の下に潜り込んでいた有紀の指先が突起を撫でる。意に反して、色の付いた息が溢れた。 「ふ……まっ、待てないってどう言う意味だよ。そもそも番契約はヒートの時じゃないと」 意味がない。無効だ。ただ項に噛み跡が残るだけ。それも数日経てば消える、なんの効力もない行為。 有紀は俺の言葉に笑って頷いた。 こんなにも安堵を覚えない笑顔は初めてだった。 「うん、だからね。俺以外の奴、考える気なくなるように既成事実作ろうと思って!」 「……は?」 「ヒートじゃなくても妊娠はできるでしょ? 俺の赤ちゃん身籠ってるのに、他のアルファとなんか番契約できないよね?」

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