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何を言っているのか。正気なのかと。言いたいことはいっぱいあった。 危険だ危険だと言いながら、俺は心のどこかで本当にヤバいことをしてくることはないと高を括っていたのかも知れない。 本気で嫌がれば有紀はやめてくれる。きちんと言えば分かる、と。 「マジで言ってんなら、ほんと、ありえないからな…! 冗談だとしても笑えない!」 「ありえなくても笑ってくれなくてもいい……もういーんだよ。渥のせいで正統法で手に入れなきゃって思わされちゃったけど、そんなことしてる余裕ないって気付いた」 「渥? なにが……どういうことだよ」 「知らなくていいよー。リクは俺に身を任せてくれたらいいからさ」 「どう考えても任せられる状況じゃなっ……おい。ちょっ…!?」 Tシャツをめくり上げられて肌が露出し、有紀が躊躇いもなく吸い付いた。 指とは違う感覚。柔らかい舌が俺の平らな胸を滑り、敏感な部分を刺激する。 「っ……バカ、離れろって!」 「俺もいーっぱい悩んだんだよ? どうしたらリクが俺のとこ来てくれるかなぁって。俺以外のこと考えられなくなるのかなって」 優しく歯を立てられて鼻から息が漏れた。 待て待て。やばい。体が熱くなってきた。この感じ、良くない。 今迄の経験からすると、こういうことをされると微量だがΩのフェロモンが漏れ出てしまう。 αである有紀に対しては逆効果でしかない。 「押してもダメなら引いてみろって、よく言ったもんだよね。でも全然来てくんなかったからテンション下がってヤれそうな子、連れ込んじゃった。やっぱリクじゃなきゃ直んないよ」 「……お前、まさかワザと」 姿を見せなかったのか? 俺が心配して、顔を覗かせに来ると踏んで。 それじゃあ俺は……あれか? ――渥の言う通り、まんまと引っかかった馬鹿ってこと? 「さあ? それよりこんな状況なのに体は正直だよね。いい香りー。一番好き」 有紀の手が夏用の薄い短パンの上から、確認するように触れる。良く言えば通気性のいい、悪く言えば生地の薄いパンツ達では、血液を集め出した俺の下半身は隠しきれなかった。 「ッ、あ」 「嫌だなんて言いながら期待してるじゃん」 「してない! してなっ……触んな…!」 「んー?」 慣れた手つきでパンツごと履いていたものを脱がされた。冷たい空気に晒されて、ビクビクと脈打つ。 「かーわい」 どういう意味の可愛いかは知らないが、あまりの羞恥にカッと顔が熱くなる。 なんなんだよ俺。なんでこんな状況でも勃つんだよ。やめろやめろと騒ぐ癖に、おかしいだろ。 心の中で自分への非難を募るが、ハッと我に帰る。 今はそれどころじゃない。

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