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「うっ、これ…」
「あー、もうほんとあいつらあからさまだわ、クソ」
佳威が忌々しげに呟いてギュッと鼻を詰まむ。ケーイチもさりげなく鼻に手を添えた。
「今日は一段と香ってるね。発情期近いのかな」
「お前も分かんのか。なら近いんじゃねーの」
発情期。
それはΩの身に起きる生理現象のひとつだ。
なんとなく誰が入ってくるのか検討がついてきたところで、一層香りが濃さを増し入口に数人の団体が姿を現した。
だいたい15~6名ぐらいだろうか。
男女を混ぜたグループだが、その中の半数は明らかにオーラが違う。
自信のありそうな歩き方や、スタイル、容姿レベルの高さ、意志の強そうな瞳の輝きですぐに分かった。
「あいつら…αだ。αがあんなに居るの初めて見た…」
αはΩ同様希少種のため、学校でいえば1つの学校に4~5人いるかいないかぐらいの割合だ。なのに、あんなにたくさん…少なくとも10人は居る。
「あれ、睦人知らなかったの?」
ケーイチが驚いたように目を開いた。
「うちの学校は、県内でも最大の大きさだからね。αのOBも多くてその子供達や他県からαが集まってくるんだ。もちろんΩもβも」
「あ!いや、それは知ってたけど…有名だし。でも実際目の当たりにするとなんか圧巻というか」
「そっちか。まあ、そうだよね。俺はもう見慣れちゃったけど、転入してきた人たちはみんなビックリするみたい」
「あんなゾロゾロ連んで何が楽しんだろな」
相変わらず鼻をつまんだままの佳威がぼやく。
そんな佳威を見てもしかして、とある一つの疑問が浮かんだ。
「あのさ…違ったらごめんだし、言いたくないなら言わなくていいんだけど…佳威って、もしかして…α?」
すると、佳威はためらうことならサラッと答えてくれた。
「あー?そうだよ。言ってなかったっけ?」
「逆に組長の息子がβとかだったら面白いよね」
「うっせー。まあ、確かに俺んとこはみんなαだけどよ。…つか、αが出来るようにしてる」
「?……へえ〜」
最後の台詞が少し気になったが、あまり深入りするのもどうかと思い思い留まる。
「ちなみにケーイチは…」
「俺はβだよ。安心した?」
「へっ?いや、別に安心も何も…」
「だってなんか睦人不安そうな顔してたから」
「…俺、不安そうな顔してた?」
そんな会話をしている間にどんどんαグループは食堂内に進出してきていた。周りにいた女の子たちがわらわらと近寄っていく。αグループの後ろからどう見てもαではない、華奢な生徒たちがついてきているのも見えた。女の子はもちろん男もいる。
この匂いは間違いなく彼らのものだ。
「あの後ろにいる奴らってΩだよな。あれって一体どういうグループなんだ?」
発情期が近いのか、目が赤く潤み頬は紅潮してなんだか少し色っぽい。
俺でも分かるこの香りはΩが発情期に入り周りを誘うフェロモンの香りだ。人数が集まっているから濃く香るが、まだ発情期に入る前だろう。本格的に発情期に入ればこんなところで日常生活を送るなんて不可能だ。
だとしてもΩはαよりも希少種な筈なのに、あれだけ人数が固まっているのは珍しい。
というか見たこともなかった。
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