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第2話
昼飯を食べ終えて午後の授業が始まるまで、教室でのんびりしていている時だった。
食堂に例の団体が来てると噂が回ったのか、教室には人がまだまばらで比較的穏やかな空気が流れていた。佳威は机に突っ伏して寝ていて、ケーイチは次の授業の準備をしている。俺もケーイチに見習って教科書を用意しようとしていたところに、なんだが既視感を覚えるざわつきが聞こえてきた。
「ん…?」
それも初めは遠くから聞こえてきていた声が、だんだん近くなってきて囁かれる声が鮮明に聞こえてくる。
耳を澄ませてみると、クロサワくんだ…久しぶりに見た…やばい格好いい…ラッキー…なんていう女子達の声だ。女子が騒ぐということは多分囁かれてるのは、男子生徒なんだろう。
正直女子からキャーキャー言われる男子にそんな興味は無かったが、あまりにも女子が騒ぐので少し気になってきた。
しかも、囁き声が遠ざかることなくどんどん近付いてくるではないか。
もしかして、同じ学年の生徒?
「あ、今日来たんだ」
いろいろ考えながら、廊下の方を見つめていた俺の後ろからケーイチが呟く声が聞こえた。
佳威はこの騒ぎにも慣れているのか、起きることはなく寝たままだ。
「なあ、このザワザワさっきもあった気がするんだけど…有名な奴?」
「有名も有名。色んな意味でだけど」
「えっ」
意味深すぎる。
「俺たちのクラスだから、もう少ししたら顔見れるよ」
「あ、やっぱり?なんか声が近付いてくると思った。騒がれてるってことはどうせαなんだろ」
「正解。さすが睦人」
「いやいや、誰でも分かるって」
本当にこの学校にはαが集まってきてるんだな、と実感する。隣で身動き一つせずお昼寝している佳威ともう一人のα、合計二人も一つのクラスに在籍してるなんてその時点で驚きだ。
というか、群れの中にリーダーが二人もいるようなものなのに大丈夫なのか。
そうこうしているうちに、教室の扉がガラリと開いた。開けたのは騒がれてる人物ではなく、その傍で顔を赤らめている女の子だ。女の子に開けさせんなよ、て…
「……………え」
慣れた様子で教室に入ってくる男子生徒を見た瞬間にドキリと胸が鳴った。
纏うオーラが全く違う。
αだという先入観なしに見ても、彼は周りを屈服させてしまうような強い存在感を放っていた。
水に濡れたような艶めく黒髪から覗く意志が強そうで、とても冷たい瞳。スッと筋の通った綺麗な鼻に、少し薄めの唇。
スラリと伸びる手足と、しっかりした体躯に同じ男から見ても男らしさを感じる。身長も高く多分佳威と同じくらいはありそうだ。
野生的な色気と繊細な顔立ちのアンバランスさがまた彼の魅力を際立たせていた。
だが、そんな外見的な驚きよりも俺にはもっと気になることがあった。
「……………あれ…?」
すごい見たことがある気がする。
最後に会ったのが7年前なので、ちょっと自信がないが激しく見たことある、気がする。
「どうしたの?睦人」
こんな漫画みたいな展開で出会えたりするもんなの?嘘だろ?
いや…でも、あいつが成長したらあんな感じ、かな。似てるけど、でも、う~…ん…
「睦人?」
「渥!!!」
あーだこーだとグルグル考えてたが、俺の脳みそはキャパオーバーで、気付くと席を立って彼の元に走っていた。後ろから焦ったように俺を呼ぶケーイチの声が聞こえてきたが、今はそれに答えてる暇はない。
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