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02
渥。あつ。それは俺の探していた幼馴染の名前だ。
ずっと小さい頃から一緒に育ち10歳になってバース検査を境に離れ離れになってしまった存在。
俺が会いたくてたまらなかった相手だ。
「渥!お前…渥だろ!?」
我慢できず走り寄ると、彼は綺麗な動作で俺を見た。
またドキリと胸が鳴る。深い黒色の瞳が俺を捉える。
その瞳が一瞬驚いたように見開いた。
「お前……」
それに俺は確信する。
間違いない!こいつは渥だ!
「渥!俺だよ!久しぶりだな…!」
あまりの嬉しさに自分が満面の笑みを浮かべているのが分かるし、脈もドクドクと早く興奮していた。そんな自分が分かってるのに抑えることができずそのまま渥を見上げる。
渥は最初だけ驚いたような顔をしたが、すぐにスッと目を細めて――酷く冷たい目をした。
「誰だ。お前」
「え…」
誰だ?
誰だってどういう意味…だよ。
「睦人!!」
グイッと強い力で後ろに引き寄せられた。
ハッと気付いて振り返るとケーイチが俺の腕を掴んで引き寄せていた。
「もー!何やってるんだよ!寝惚けてるの?」
「…?」
寝惚けてなんてない。佳威にならまだしもさっきまでずっと起きてた俺に対して何を言っているんだ。ケーイチは俺を渥から離すように引っ張ってニコリと渥に笑いかけた。
「おはよう、黒澤くん。今日は学校来たんだね」
「ケーイチか、なんだこいつ。こんなやつクラスに居たか?」
渥が俺を見ずにケーイチに問いかける。
「今日編入してきた浅香 睦人くんだよ。俺の前の席。仲良くしてあげてね」
「ああ、そう」
そう短く言うと渥は自分の席らしい場所にさっさと歩いて行ってしまう。
「あっ、ちょっと、おい…!!」
「睦人!もう授業始まるから席戻ろう?」
思わず引き留めそうになった俺を、ケーイチが有無を言わさぬ笑顔で引き戻す。気のせいかな。なんだか笑顔が怖い。
「ね?」
「………う、うん」
ケーイチの笑顔の圧に押されて、俺は仕方なく頷いて自分の席に戻った。
席に戻るといつの間にか佳威が起きていて、なんとも言えない表情で俺らを見ていた。
クラスメイトも食堂に居た団体の話題でワイワイしながらどんどん戻ってきて、午後の授業が始まるチャイムが鳴った。
渥は一番後ろの席だったようで、座ってしまうと俺の席からは姿が見えない。
でも、この空間に渥がいる。
その事実が嬉しいのに、どうしてこんな気持ちにならないといけないんだ。
会えたら話したい話がいっぱいあった。7年間の空白を埋めるくらい色々と話したかったし、渥の話もいっぱい聞きたかったのに。
前みたいに毎日遊べるって想像して、俺はこんなにも会いたかったのに。
やっと会えたのに。
どうして、渥はあんなことを?
最初の表情なら俺だって分かったはずだ。
なんでだよ。なんであんなこと言うんだよ。
胸がムカムカする。
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