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03
転校初日のすべての授業が終わって、俺は先生の言うとおりケーイチ達に校舎の中を中を案内して貰っていた。
「で、ここが図書室。あとは、向こうに見える大きい建物が学校の寮だよ」
「ちなみに俺もケーイチも寮から通ってるぜ」
佳威も暇だから、と一緒に付いてきてくれていた。2人にだいたいの場所を教えてもらい最後の図書室に着いたところだった。
「しかも佳威はαだから、無償なんだよ。羨ましいよねえ。睦人はどうやって通ってるの?」
「マジで!?この学校ってほんとαに至れり尽くせりだよな…。あ、俺は実家からだよ。普通に通える距離だし。でもいーな、寮。楽しそうだよな」
「まあ、楽だな。飯も出てくるし洗濯とか掃除とかもおばちゃんがやってくれるし」
「え、なにそれ。寮ってそんな感じなの?」
「いや、多分俺たちの学校の寮が特殊なだけだとは思うけど…普通はあってもご飯だけじゃないかな」
「だ、だよな。へえ」
ケーイチが苦笑いしながら、佳威の言葉に付け足す。
少し遠くに見える建物はとても大きくまだまだ綺麗な建物に見えた。寮というより、マンションといったほうがしっくりくる立派さだ。それに掃除も洗濯もしてくれるおばちゃんがいるとなると、それはもはや寮ではなくホテルというのでは…。αのOBが多いだけあってきっと寄付とかすごいんだろうな。
「…渥も、寮なのかな…」
俺は寮を見ながらついふと思ったことを口にしてしまった。
その呟きに2人の空気が瞬時に変わるのを感じる。
「睦人」
ケーイチが控えめに、だけどしっかりとした声音で俺を呼んだ。
「睦人は…黒澤くんとどういう関係なの?」
「…黒澤って渥のことだよな?渥は幼馴染だよ。10歳まで一緒に過ごしてた」
昔は黒澤渥という名前でなく、荒木渥という名前だった。苗字が変わってるということは、親父さんたちは別れてしまったのかもしれない。どちらについたのかは分からないが、2人とも綺麗な人たちだった。
特に母親の静香さんはサラサラの黒髪が印象的で女優みたいな芯のある美しい女性だった。遊びに来る俺にもめちゃくちゃ優しく、俺の母親とも気があったのかよく一緒にお喋りをしているのを見かけた。
親父さんは結構大きな会社の社長だったと思う。仕事が忙しいのかあまり会ったこともなく家に遊びに行ってもほとんどいなかった気がする。
だからか俺の中での記憶に渥の親父さんとの思い出はあまりない。
「渥がバース検査でαだって分かって、そっから離れ離れになっちゃったけど。…あいつなんで俺のこと知らないみたいな言い方したんだろ…」
あれは間違いなく渥だった。かなり男らしく成長していたが、かつての面影は確かに感じられた。だけどあんな冷たい目…
思い出しただけで、胸がチクリと痛む。
「つーかそもそも本当に黒澤がお前の知ってる奴なのか?ちょっと似てただけじゃねえのか」
「そうそう、10歳の頃っていったらもう7年くらいは経ってるよね?その間1度も会ってないんでしょ?もしかしたら人違いってこともあるんじゃないかな」
今まで散々言い合ってた2人がここにきて、意見を合わせてくる。なんなんだ。そんな風に言ってこられるとなんだか、
「…人違いにしたいみたいに聞こえるんだけど…」
「したいんだよ」
ケーイチは即答だった。まさかそんなにハッキリ言われるとは思わず、一瞬たじろぐ。
「正直、黒澤くんが本当に睦人の幼馴染だとかどうでもいいんだ。人違いでも、違わなくても、なんだったとしても彼には近付かないでほしい」
「なんで…?」
その言葉しか出てこない。脳内も疑問符でいっぱいだった。
気持ちが顔に出てたのかケーイチが優しい笑顔を向けてくれる。
だがその口から出た言葉はちっとも優しくなんてなかった。
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