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「睦人は転校してきたばっかで知らないかも知れないけど、黒澤くんってαの中でも強烈な支配力のあるαで将来の相手になりたいと思ってる子達がたくさん居るんだよ。だからその分みんな牽制しあって近付く子達を目の敵にしてる」 「渥になんか近付いたら刈られんぞ。近付いた奴らはだいたい数週間で姿が見えなくなったしな」 話しながら佳威が壁に背中を預けて、腕を組む。 「噂では、牽制し合ってる子達の差し金で強姦されたとか、暴行されて病院行きになったとか…結構やばい噂がいっぱい回ってくるよ」 「でも、それは女の子の場合だろ…?俺は男だしその子たちの標的にはならないと思うんだけど…」 納得のできない俺はたまらず食いさがる。そんな俺にケーイチは困ったような表情を向けた。 困らせるような顔をさせてしまったことに少し胸がチクリと痛む。 「男とか、女とか関係ないよ。Ωなら男でも子供産めるしね。だから、不安要素は根こそぎ刈り取りたいんだと思う」 「だから、あんま深い関係だって知られんな。あいつとはただのクラスメイトで居ろ」 「っ…、……」 佳威の威圧的な言い方に、思わず言い返しそうになるが、二人の表情を見て言葉を飲み込んだ。 分かってる。二人が俺の事を心配して忠告をしてくれてるんだってことは。 未だに信じられないが、俺が転校してくる前にはそういう事実があったんだろう。それで二人は俺が渥に接触して、危険な目に遭わないように諭してくれてる。 二人とも本当に優しくていい奴なんだ。そんな奴らの心配を無下にしてはいけない気がした。 「…分かった…渥とはなるべく接触しないようにしてみる。…まあ、向こうも俺の事覚えてないみたいだし、俺さえ変なこと言わなきゃ大丈夫だよ」 そう答えるとケーイチがホッとしたような顔をしたあと、すぐに今日一の笑顔でニッコリ微笑んだ。 「よかった!分かってくれて」 「あいつが居なくても俺らがいるんだし、気にすんなよ」 佳威が壁から背中を離し、サッと俺の肩を抱き込んで男前な笑顔で笑う。ふわっといい香りに包まれた。 これでいい。きっとこれでいいんだ。 少し寂しい気もするが今はこの選択が一番な気がした。

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