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02
席に向かうとケーイチの呆れた顔があった。
「お、おはよ~…」
席に着きながら小声で挨拶するとケーイチは「まったく、もう」みたいな顔でニコリと笑って返してくれた。
「転校2日目から遅刻するなんて睦人も大物だね」
「うっ」
小声でチクリと言われて返す言葉もない。
どうしようもなく、席に着いた佳威を睨むとニヤリと笑われた。
「な?大丈夫だったろ」
「そういう問題じゃない!」
「あ~あ…睦人が不良になっていく…」
「い、いや…ケーイチ…」
誰も味方が居なくて俺はうううと頭を抱えて机に突っ伏した。
今日も渥はまだ登校していなかった。
ーーー
「おい!佳威!さっきはよくも遅刻に巻き込んでくれたな!」
ホームルームが終わって次の授業の準備もし終わり手持ち無沙汰になった俺はとりあえず先程のことを佳威に説教してやることにした。
「んなこと言ったってありゃどっちにしろ間に合わなかったぜ。だから俺が一緒に登校してやったんだろ。なんなら感謝して欲しいくらいだ」
「それは…、まあ…確かにギリギリではあったけど………てかほんと何で俺ら怒られなかったんだ?この学校は遅刻に寛大なのか?」
「そんなわけないでしょ、何言ってるの睦人。怒られずにすんだのは佳威と一緒だったからだよ」
「えっ、ほんとに佳威が関係してたのか?」
「だからそう言ってんだろー」
「この学校はほんとにα贔屓だからね、αは遅刻しても咎められないんだ。出席日数だってあってないようなものだし。黒澤くん程じゃないけど佳威だって学校に来てる方が珍しいくらいだよ」
「いや、そりゃ言い過ぎだっつの。俺は真面目な方だろ」
「はいはい。だから先生もαと一緒に行動してる生徒には口出ししてこない。αの反感買うのが面倒なんじゃないかと俺は思ってる」
佳威を適当にあしらってケーイチはそう教えてくれた。
「う、わ~~…なんだよそれ…羨ましすぎる。よし、佳威!今後も遅刻した時はよろしくな!」
「あ?手のひら返すの早すぎんだろ。ま、いいけど」
佳威が面白そうにケラケラ笑う。その横でケーイチが微笑んだ。
「睦人、そういうのなんて言うか知ってる?」
「え?」
「虎の威を借る狐っていうんだよ。もう遅刻しないように頑張ろうね」
にっこりと黒い笑みで微笑みかけられて俺は思わず席を立って逃げ出しそうになってしまった。
こ、怖い…!怖すぎるよ!なんかちょいちょい黒い部分が見え隠れしてるんですけど!
「は、はい…ごめんなさい。もう遅刻しないです。ずるいこと言ってすみませんでした」
「いい子だね、睦人」
今度こそ本当に優しい笑顔を向けられてホッと息を吐いた。
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