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03
「あ」
その事に気付いたのはお昼休みに入る直前。お腹が鳴りそう…鳴りそう…と少しそわそわしている時だった。
あと少しで授業が終わるんだ!もう少し我慢しろ俺の腹あ~!なんて先生の話そっちのけで考えていた俺は、当然そのあとに待っているお昼ご飯のことも考えた。
今日は母さんがお弁当を作ってくれていた。朝慌てて洗面台に向かう途中で机の上に見慣れた布に包まれたお弁当箱を見つけていたのだ。
朝早く出たはずなのに、ありがたや~なんて両手を合わせたいところだったが今日の朝は何せ急いでいた。慌てていた。手を合わせる暇なんて無かった。
だからだろうか。
俺はその見つけたお弁当をカバンに入れた記憶も無ければ掴んだ記憶もなかった。
つまり俺はせっかく母さんがお弁当を作ってくれていたのに持ってくるのを忘れてしまったのだ。
やってしまった。
そして冒頭に戻るのである。
「はい、じゃあ授業はここまで。明日は78ページから始めるから予習しとけよ~」
先生の言葉の後に午前中の授業が終わりお昼休みに入るチャイムが鳴った。
その瞬間たまらず俺はバタンッと机に倒れ込む。
「いよーーーし!!飯だ!飯!飯行くぞ!…あ?どうしたんだこいつ」
隣から佳威の声が聞こえて、後ろからはケーイチの不思議そうな声が聞こえた。
「睦人どうしたの?さっきもなんか呟いてたよね」
俺はショックを隠し切れないままふらふらと顔を起こして体を横に向けた。
「今日……弁当だったのに……持ってくるの忘れた……」
「あー…なるほど。売店で何か買ってくる?それとも食堂行く?」
ケーイチが労わるように顔を覗き込んできた。
「ケーイチ…今日は?」
「え、…今日はお弁当作ってきたけど…まあどこで食べても問題無いし睦人に合わせるよ?…でもまだ売店行ったこと無いなら行ってみてもいいかもね」
「確かに…じゃあ今日は売店で買ってくる。佳威はどうする?」
「んじゃ俺も売店行くわ。そうと決まったら行こうぜ!…まあ元気出せよ!弁当は帰って食ったらいいじゃねえか」
余程俺が落ち込んでいるように見えたのか佳威までも元気出せと励ましてくれる。
落ち込んでるというか、どちらかというとビビってるというか…。
帰って母に嫌味を言われるのが目に見えていた。
まあでも今更足掻いても仕方ないので気持ちを切り替えることにしよう。
「ありがとな。んじゃ行くか。先食べててくれよ、ケーイチ」
「オッケー。いってらっしゃい」
にこやかにヒラヒラと手を振りながら送り出された俺たちはお昼ご飯を獲得するために売店に向かった。
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