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「俺はβですけど…」 「なっ、なに!?佳威!きみはとことんβが好きなのだな!」 矢田が信じられないとばかりの表情で佳威を見る。 佳威はというと、無表情で矢田を睨んでいた。 こ、こわっ 「…お前にどーのこーの言われる筋合いはねえし、そもそもお前みたいに番候補とか言って相手をとっかえひっかえしてるような奴に言われたくねえな」 そう言うが早いか佳威の体が動いて、その大きな手はミキちゃんの頬に寄せられていた。 「つーわけだから、ミキちゃん?こんな奴さっさとやめて俺みたいな誠実なα探したほうが今後の為だぜ?」 俺の方向からは見えなかったが、多分佳威はその容姿を最大限に活かしたとびきりの笑顔で微笑みかけたのだと思う。 ミキちゃんは一瞬なにが起きたのか分からなかったのか固まり、ブワァッと顔が真っ赤になった。もはや茹でダコである。 それから、ふあああ~!と何やら可愛い奇声を発して反対方向へと走り出してしまった。 「ああっ!ミキ!待っておくれ!僕には君だけだよ!信じて!」 矢田が面白いくらい慌ててあとを追って行く。 その様子を周りの生徒が興味深げに見つめていた。 「………あれ、大丈夫か?」 「気にすんな。あいつああいう奴だから。女の子大好きΩ大好きセックス大好きなキチガイだから、睦人はもう近づくんじゃねえぞ」 「あ、うん。できればお近付きになりたくないタイプかな」 俺の返答に満足そうに頷いて佳威は女の子を触った手をクン…と匂った。それから、俺の服にそっと擦りつけた。 「ちょっ!は?何やってんだ!?」 可愛い女の子を触った手とはいえ、そう汚いものを擦りつけられるようにされると反射的に体が引く。 「あ、わりぃ。あのΩはどんな匂いか気になって嗅いでみたけど、やっぱダメだったから思わず…」 「なんて奴だ…あんな可愛い子でも駄目だなんて…」 「つーか矢田の匂いがべったりついてて気持ち悪ぃ」 そう言われた瞬間に矢田の匂いをべったり擦りつけられたような気分になってゲンナリした。 「睦人」 名を呼ばれると同時に、ぐいっと肩を引き寄せられて体が佳威に密着する。 周りがざわっと色めき立った。 「えっ…」 そのまま首筋に佳威の顔がうずまり、鼻が首筋を掠めた。その感触に体がピクリと反応する。 思わず顔を佳威とは、反対の方向に向けてなんとか逃げようと試みるが、佳威の力は思った以上に強くそれ以上離れることができない。 「ちょ、ちょっと、佳威…っ、どうした…!みんな見てるんだけどっ…」 佳威の香りに包まれながら、心臓が早くなるのを感じた。 多分時間にして数秒だったと思う。 佳威の拘束が解けて体が離れた。 「はー、やっぱ俺睦人の匂いめっちゃ好きだわ。癒された」 「おっ、おっ、………お前なぁ…」 ただ匂いを嗅がれただけだったらしい。こんなところで抱きつかれて怒りたいところだが、めっちゃ好きと褒められて俺の怒りは中途半端に燃え尽きてしまった。 「…はぁ…、まあいいや。早くケーイチんとこ戻ろ」 「そうだな。あ〜、腹減ったー」 矢田の時とは打って変わってご機嫌な様子の佳威であった。

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