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教室に戻るとやっぱりケーイチは机に弁当を置いたまま先に食べずに待ってくれていた。 椅子にもたれて携帯を弄っている。ああやって無表情で携帯を触っているケーイチを見ると、俺の知る穏和な彼とはまた違う雰囲気を感じた。 そんなケーイチは教室に戻ってきた俺たちに気付くとこちらを向いて優しい笑顔で「遅い」と笑った。 「あっ、ご、ごめんなケーイチ。途中変なのに絡まれて…」 もはや変なの扱いである。 「変なの?佳威がいるのに絡んでくるやつなんて居たかな…、あ」 机にそれぞれの弁当を置きながら俺たちはやっと腰を降ろした。 ケーイチはすぐに誰か思いついたのか苦い表情を浮かべる。 「矢田か…。大丈夫?睦人。なにもされなかった?」 「させるわけねえだろ。あいつまた違うΩ連れて歩いてたぜ」 佳威がさっそく買った弁当を開けた。俺はとりあえず弁当と一緒に買ったお茶でゴクリと喉を潤す。 「また?ほんとそういうの好きだねあの人。…まあでも佳威もあれくらい積極的に番探ししてもいいと思うけど」 「はんなへっほうなしみはいなほとふるわへねーたろ(あんな節操なしみたいなことするわけねえだろ)」 「ちょっと佳威。口に物入れながら喋るのやめてくれる?はぁ…まあ睦人が無事ならそれでいいや。俺らも食べよっか?」 「うん、ケーイチ待っててくれてありがとな」 そうお礼を伝えるとケーイチはにこりと微笑んでくれた。 ーーー 昼ご飯を食べ終えた俺たちは午後の授業である体育の為に更衣室に移動していた。 「ご飯食べた後が体育とか…もうちょっと考えて欲しいよな…」 俺がぶつぶつ言いながら胃を抑えると、隣で佳威がシャツを脱いでロッカーに入れた。 チラリと目をやると程よく筋肉のついたバランスのいい胸板に男の俺から見てもいい体。 まるで同じ男子学生の体とは思えない…この横で着替えなきゃいけないのか…なんの罰ゲームだこれは。 「そうか?俺は別に食ってすぐ動けるけど。つか眠くならねえ授業の方が楽でいいわ」 「佳威らしいな」 ハハッと笑うと佳威の横で上のTシャツを着終わったケーイチがロッカーの小さな扉越しにひょっこり顔を出した。 「ちなみに俺も睦人と同じ意見だよ」 「おお、仲間だ!ケーイチならそうだと思った!」 「え…なにそれ。俺そんな風に見られてるの?」 「そりゃそうだろ。お前みたいに貧弱そうなやつが運動得意には見えねえだろ」 「体力バカの佳威に言われたくないな」 「なんだと?」 「ス、ストップー!二人とも喧嘩は後にして早く着替えちゃおうぜ!」 慌てて止めると二人はしぶしぶ俺の言葉に従ってくれた。それに一息ついて俺も上のシャツを脱ぐ。

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