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06
「βだからってのもあるけど未だにΩのフェロモンに当てられたことないからたぶん大丈夫だよ」
「マジか!…って言っても俺もヒート始まったことないからどこまで影響があるのか分かんないんだけど」
「αはすごいクラクラきちゃうらしいね。まあ、間違っても佳威の部屋には行かないようにね」
「間違うも何も俺、佳威の部屋知らないしな。…てかケーイチの部屋こそ何号室なんだ?」
「俺は503だよ。また遊びにおいで」
503か。確かに近そうな部屋番号だ。
「りょうかい!今度お邪魔する。…んじゃ俺そろそろ実家の方に帰ろうかな」
チラリと時計を見ると、先生と話をしていたのもあって結構時間が過ぎていた。
「ああ、もうこんな時間か。じゃあ出よっか?色々ありがとうね睦人」
「いや!こちらこそありがとな!なんかちょっとスッキリした」
「そう?それなら良かった」
穏やかな笑みを浮かべてケーイチが微笑んだ。
この笑顔…ほんと反則だよなー…
そんなことを思いながら、俺たちは一緒に部屋を出て、お互い手を振って別れた。
ーーー
俺は1人降りていくエレベーターの中でふぅ…と息を吐く。
最初はどうなることかと思ったがバレていたのがケーイチで良かった。
バレてしまえば、自分の周りに自分の事を知ってくれてる人が1人でも居るのは心強く感じる。
自分で決めたこととはいえやはり誰かに嘘をつくのは疲れる。罪悪感に苛まれる。それがケーイチには嘘を付かなくていいと思うと…
俺はもう一度深く息を吐いた。
「こんなことなら最初からケーイチにだけ言っとけば良かったな…」
そう呟いた後にちょうどエレベーターが一階に到着した事を知らせる機械音が響く。
両側に扉が収納されていくのを何気なく見て、足を踏み出そうと動くと扉の先に誰かが立っているのに気付いた。
「あっ………」
「ん?君は」
そこには今日出会ったばかりの、――あまり印象の良くないαの矢田が立っていた。
「むむ…君は確か、どこかで見たような気がするんだが…」
こいつ俺のこと覚えてない…!
今日会ったばかりだというのに、そんなに印象に残らない顔だったのかと落ち込みそうになったが、それよりも俺は好都合とそそくさと矢田の横を通り過ぎようとした。
「ハッ!思い出したぞ!今日佳威と連れ立って歩いていた奴だろう…って、おい。どこに行く」
「わ!はっ、離せ!」
目論みも虚しくガシッと腕を掴まれてしまった。近くで見れば見る程ガッチリした肉体が良くわかる。佳威よりも高いであろう身長は威圧感さえ感じさせた。
「君もこの生徒寮に住んでいるのか?」
「あ…あぁ、まあ、一応そんな感じだ、けど」
「そうか。…まあこれも何かの縁だ!俺もミキと別れて暇をしていたんだ。お茶でも飲んで行かないか」
「え!?別れたのか!?」
突然過ぎて思わず食い付いてしまった。
すると矢田が良くぞ聞いてくれました、と言わんばかりに目をくりくりさせてきた。
あ、なんかやばい気がする。
「話せば長くなる!立ち話もなんだ!さあ、行こう!」
「待って!ちょっと俺は!行かないって、ちょっとおおお~~~…」
さすがに力の差があり過ぎて引き剥がせず、俺はもはや引き摺られるかのようにもう一度エレベーターの中に戻る羽目になってしまった。
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