41 / 289
09
「ミキ……!?」
勢いよく開け放たれた扉。矢田越しに見えたのは、佳威のピリピリした顔と昼間会った可愛いミキちゃんが目をうるうるさせて佳威の腕に縋り付いてる姿だった。
ポカーン…そんな擬音がぴったりだ。
多分、矢田も俺と同じ顔してると思う。
佳威は縋り付くミキちゃんをグイッと引っ張って矢田の胸に押し付けた。キャッという可愛らしい声が聞こえて、矢田の腕がミキちゃんを抱き締める。
「ミキ…!」
「矢田ァ…!てめえの女だろ、しっかり見とけよ!散々まとわりつかれていい迷惑だったんだぞ」
「そんな…ひどい!佳威くん…。佳威くんが俺にしとけって言ったんじゃない…」
「だから、んなこと言ってねえっつの!俺みたいな誠実なやつ探せって言っただけで、俺にしとけとは一言も言ってねえだろ」
「確かに…」
思わず呟く。そう大きな声で呟いたつもりは無かったが、佳威に聞こえたらしく矢田の肩越しに目があった。
「睦人…!?何やってんだ!?」
佳威が慌てて矢田を押し除け部屋に上がってきた。
「あ~…ちょっと人生相談を受けてまして…」
全部説明するのが面倒臭くて、間違いではないがオブラートに包んで伝えると、佳威の眉間に皺が寄る。
「…なんだよ、人生相談って。矢田には近付くなって言ったよな…?」
「いや!不可抗力だから!俺、あいつに無理矢理連れ込まれた感じだから!」
オブラートに包んだはいいものの佳威の方が怖くて、すぐペラってしまった。
だってなんかめっちゃ怒ってるし!怖いし!ビビリには無理!
「無理矢理…?なんかされたのか?」
「………特には」
「…ふーん。じゃあちょっと一発やってくるわ」
「待ってえええええええ!?」
クルッと踵を返して多分一発殴りに行こうとした佳威の腰をガシッと捕まえる。
「俺ほんと大丈夫だから!暴力はやめよ!?」
「………」
「佳威!もう行こう!帰ろ!」
「お前ちょっと俺の部屋に来い」
「…はい」
佳威はそのまま長い足でズンズンと外に歩いて行った。俺も慌ててカバンを掴んで後を追う。
そんな俺たちの様子を見ていた矢田が、ミキちゃんを抱き締めたままニヤニヤと笑っていた。
そのままの流れでミキちゃんを見ると何故かものすごい顔でこちらを睨んでいる。
「!?」
可愛い子に睨まれるなんていう初めての体験に思わず足が止まりそうになった。
なんで?なんでミキちゃんに睨まれてんの?俺、何もしてないよね!?
怖すぎるミキちゃんの横を通り過ぎる際に、矢田がぽつりと呟いた。
先を歩く佳威に聞こえないように。
俺にだけ聞こえるような声のトーンで。
「やっぱりそうだ。…君は面白いね、睦人」
その声に振り向いてはいけない気がして、俺はただ前を行く佳威に着いて行くことだけに意識を集中させていた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!