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俺はただひたすら目の前に置かれたペットボトルが外気の温度に触れて汗をかく姿を見つめていた。
「………」
佳威はソファーに腰掛けているが、俺はなんだか居心地が悪く地べたに座っている。なので視線のいい位置に水のペットボトルが置いてあるのだが、これは佳威が冷蔵庫からポイッと投げて渡してくれたやつだ。
ジッとペットボトルを見つめる俺をチラリと見やって佳威が溜め息をついた。
「いつまでそこに座っとく気だよ」
「…佳威の機嫌が良くなるまで」
ちなみに正座である。
「別に機嫌悪くねえから」
「眉間に皺寄ってるけど」
「あ?」
「ナンデモナイデース」
「………別に、俺はお前の保護者でもなんでねえから、口出す権利はないと思うけどよ」
佳威が膝に両肘を置いて前に倒れ込む。
「あいつぶっ飛んでるからホント何しでかすか分かんねえぞ。誰とつるもうが自分の勝手だって言われたらそれまでだけど、一応用心くらいはしろよ」
な?と、こちらを伺う佳威に、急に申し訳なさがこみ上げてきた。
半強制だったとはいえ、気を付けろと言われたのにのこのこ部屋まで行って結局後半わりと危ない状況になってしまった。
あの場に佳威が来ていなかったら…と考えるとゾッとする。
「心配かけてごめん…。本当は矢田がなんか勘違いしてて…その、押し倒されたんだ。何がしたかったのか結局分かんなかったけど、佳威が来てくれなかったらヤバかったかもしんない…」
「は?」
俺の言葉に佳威の表情が固まった。
「お前……矢田に…押し倒された、のか?」
「あいつ筋肉やばいよな。ビクともしなかった…って、佳威!?」
ガタッと勢いよく立ち上がった佳威は無表情のまま外に向かって歩き出すので俺はまたもや慌てて佳威の腕を掴んだ。
立ち上がる際に机に膝をぶつけて、机の上にあったペットボトルが音を立てて倒れた。
「まさか矢田んとこ行くんじゃないよな!?」
「…あいつには一回分からせてやる必要がある」
俺の馬鹿!!なんでもかんでも馬鹿正直に言えばいいってもんじゃないよね!!
「だだだ駄目だって!!あんなガチムチ殴ったって手が痛いだけだよ!?それに、ほんとそれだけだから!それ以外ほんとーーーに、なんもされてない!」
「…ほんとか?」
佳威がやっとこっちを向いてくれた。その目を見て俺を強く頷く。
「うん!その前に佳威が来てくれたんだよ!ほんと助かった、ありがとう」
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