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02
「俺にはねえよ。矢田んとこ帰れ」
「春行くんとは終わったの…っ、お願い、お話だけでも聞いて…?」
あいつハルユキって名前なのか。どうでもいいけど矢田のフルネームを知ってしまった。
「あー…えーと、島山さん?」
見かねたケーイチが口を開く。
「きみは渓くんだよね?ミキのこと知ってるの?」
「まあ、一応…。島山さん俺たちこれから予定あるんだよね。また今度にしてくれないかな?」
ケーイチの後ろで、佳威がそうそれそれ!よく言った!と言わんばかりに頷く。
「ん~っ渓くん!ミキのお話すぐ終わるから…ちょっとだけ………だめ?」
コテンと首を横に傾げてケーイチを少し潤んだ瞳で見上げた。
またもや俺は自分に向けられているわけでもないのに、あまりの可愛さにキュンとしてしまう。
俺、こういう守ってあげたくなるような子が好きなのかも知れない…
自分のタイプを認識できたところで、ケーイチがどう返すのか気になってケーイチを見るといつもの優しそうな笑顔を浮かべていた。
「ごめんね?ずっと前から約束してたことだから」
決して威圧的な言い方ではないのに、発した言葉には有無を言わさない圧力が感じられた。
ちなみにずっと前という名の5分前の話である。
「…わかった…じゃあ…また来るね」
ミキちゃんは聡い子なのか、ケーイチの言葉に反抗することなく素直に頷く。
「…」
そのままチラリと俺の方へ視線が動きドキッとしたが、ミキちゃんはすぐに視線を外すと踵を返して教室を出て行った。
ミキちゃんの甘い香りだけが残る。
前回ミキちゃんに睨まれてビビったが、今日は睨まれなくてよかった。どうしてあの時俺のこと睨んだろう。
未だに謎である。
「はー、助かったぜ!ケーイチ!」
佳威がようやくケーイチの背から体をずらした。そんな佳威に呆れた顔をしながらケーイチが尋ねる。
「佳威…あの子Ωだよね?だめなの?」
「あー、ダメダメ!全然タイプじゃねえ」
「ああ、そう。…ていうか睦人はいちいち顔赤くし過ぎじゃない?」
「え!?うそ!?俺赤くなってた!?」
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