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「な、なんで…矢田が…そんなこと」
「君からΩのフェロモンを感じたって言ってたのよ!……Ωって言っても男なのに!どんな手を使ってるの!?」
「ままま待って!ミキちゃん!俺は、Ωじゃないよ!βだよ」
「春行くんが嘘言ってるって言いたいの?」
「そういうわけじゃ無いけど…、俺はΩじゃない」
こんなところでバレるわけには行かない。この子にバレたら隠してきた意味が無くなる!
俺が慌てて否定をしても、ミキちゃんはもはや聞く耳も持たないのかぶんぶんと首を左右に振った。
「佳威くんは、ミキの運命の相手なの!もうすぐヒートが始まるわ…そうしたら佳威くんもミキのこと見てくれる。そのことを伝えたいのに、君みたいなΩに佳威くんの周りをうろちょろされたら邪魔なの!」
邪魔。
ハッキリと悪意のある言葉を言われてズキンと胸が痛んだ。
「そんなこと…言われても…」
「男のΩが珍しいからって調子に乗らないで!この学校には君より可愛くて綺麗な男のΩはいっぱいいるわ!それに…ミキの方が佳威くんに合ってる!」
「………だから、俺は…Ωじゃ」
「まだ言ってるの!?…分からないなら、分からせてあげるから。ミキにはミキのことを大好きなオトモダチがいっぱい居るんだから…」
「楽しそうなことやってるな」
ヒステリックに叫び始めていたミキちゃんの雰囲気がガラリと変わり、何やら物騒な言葉を吐き出したところで、覚えのある声が背後から聞こえた。
「あ…」
「くろ、さわ…くん…?」
振り向くとそこには腹が立つほど整った顔で不敵な笑みを浮かべる渥の姿があった。
「え……ど、して…」
渥の姿にミキちゃんが分かりやすくたじろいだ。今にも折れてしまいそうな細い体をギュッと自ら抱き締める。
「お前、矢田の女なんだって?それがこんなとこでこんなやつ相手になにしてるんだ」
こんなやつって。
心の中でツッコんだ。さりげなく馬鹿にされた気がする。
「…匂うな。もうすぐヒートか」
「そ、そう…そうだよ」
先ほどとはうって変わってミキちゃんが熱っぽく息を吐く。顔が赤く目が潤んでいた。風邪をひいたときのような顔だ。
渥が近付けば近付くほど、ミキちゃんは後ずさる。少し体が震えているようだった。
俺の横に立った渥は、チラリと俺を見やった。
「渥…」
「童貞」
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