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「んっ、……!?」 唇に当たる柔らかい感触に、ハッと我に返ったがもう遅い。いつの間にか腰に回ってきた手が俺の体をしっかりホールドしていて振り解けなかった。 「んんん、…ふ、」 ぬる、と入り込んでくる熱い舌に体がビクつく。口を閉じようとしてもそれより先に舌を絡めて吸われ、俺の背筋に電流が走った。 心臓がうるさくて、全身が熱くて堪らない。 ただキスをされているだけなのに、この数秒で俺の脳はもはや何も考えられないくらい溶けきっていた。 目の間に白い靄がかかっていくように。 キスって普通こんな風になるものなのか…? 「……っ、は」 少し名残惜しそうに離れた唇に、呼吸をするのも忘れていたのか、吸い込める新鮮な空気が息をさせてくれた。 渥の顔を見上げると、俺の想像とは違いまるで熱を帯びたような瞳で俺を見下ろしていた。 「お前…なに、この匂い。誘ってるのか」 「にお、い…?」 「フェロモン。やばい」 「んん、…」 また、ちゅと口付けされ、はっきりしない意識のなかで無意識にも応えようと体が動く。渥は少し驚いたようだったが、そのまま首筋にもキスを落とされた。 「睦人……」 「睦人!!」 渥が顔を離したその直後――至近距離からと、背後の少し離れた位置からほぼ同時くらいで俺の名を呼ぶ声が聞こえた。 至近距離はもちろん渥のものだが、背後から聞こえてきた声は切羽詰まったような声。 振り向こうと体を動かすと、何故かストンとしゃがみ込んでしまう。身体から力が抜けたように動かなかった。これは…もしや腰砕けというやつか? 「……情けな…」 仕方なく上半身だけで後ろを振り返るとケーイチと佳威がこちらに向かってきているところだった。 「睦人、」 ケーイチが不安そうな顔で俺の名前を呼ぶ。 一方、佳威は今にも喧嘩を始めそうな険しい顔つきでこちらに歩いてくるものだから、慌ててケーイチが後を追いかける。 「ちょっと、佳威。変なことしないでよ」 「しねえよ」 佳威は俺の傍まで来ると、グイッと腕を持って持ち上げてくれた。すぐには足に力が入らず、佳威にもたれかかるように倒れてしまった。 「…う、佳威…ごめ」 「………」 佳威はチラリと俺を見ただけで何も言わない。 すぐに向かいにいる渥に顔を向けた。 「こいつに何したんだよ」 「聞く必要があるか?相変わらず鼻がキクんだな」 「あ?」 「どんなに可愛いΩが擦り寄ってきてもお眼鏡に叶わないグルメ、だろ?」 「…喧嘩売ってんのか」 「まさか。お前みたいなバックのデカイやつと殴り合う気なんてさらさらないね」 「ハッ。バックがデカイのはお互い様だろ。笑わせんな」

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