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しかし成長した渥の口から父親の名を聞くのはなんだか少し不思議な感じもする。声変わりもしていて他人みたいだ。
「んー、そうだなあ。美味しいっちゃ美味しいよ。疲れてグビッといく最初の一杯が美味しんだ!」
「へえ、いいな」
「でもまだ飲んじゃ駄目だぞ~。渥くんがお酒飲める年齢になったら、りっちゃんと一緒に晩酌してくれるか?」
「もちろんです。…楽しみだな」
渥が人懐っこい笑顔をさらに緩めて笑った。やわらかく、見る限り嘘偽りない笑顔。
あまりに嬉しそうなその表情にドキッと胸が鳴る。母親は、やだー、かわいいわあーなんてキャッキャしているし、親父も嬉しそうにヘラヘラしていた。
「あ、渥…!俺のこと待ってたんだろ?部屋行く、か?」
駄目だ!
これ以上渥のあんな顔見てたら変な気持ちになってしまう!
俺は渥と目を合わせないように呼び掛けた。
「あ、そうだった。じゃあ、ご馳走様でした。久しぶりに美味しいご飯食べました」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね!渥くんならいつでも食べに来ていいのよ」
「そうそう、渥くんさえ良ければまた一緒にご飯たべような」
「…はい」
渥は自然な動作で自分の食べた食器を重ねた。母親が気付いて「いいのよ、置いておいて」と優しく笑いかける。
「りっちゃん!お茶あるから、あんた一緒に持って上がって」
「………うん」
母さん…俺にももっと優しい声のトーンで話しかけてくれよ…
渥とのあまりの差に少し悲しい気持ちになりながら、お茶とコップが二つ乗ったトレイを持って、二階にある自分の部屋に向かった。
渥は一度来たことがあるから、特に何かを言うこともなく素直に俺のあとをついてくる。
自分の部屋の扉を開けて電気をつけ、トレイを部屋の真ん中に置いてあるテーブルに置いた。
「………えーと、…お茶、飲むよな?」
「飲む」
短くそう答えると渥は普通にベッドに腰掛けた。
あ、当然のようにお前がそこ座るのね…
仕方ないので俺が床に腰掛けた。
お茶をコップに入れて渥に手渡す。
「お前今まで何してたんだ」
「何って…飯だけど…」
「あいつらと?」
「うん」
「ふーん」
聞いておきながら然程興味の無さそうな返事をする渥。というか、さっきまでの温和な好青年はどこ行ったんだよ!
俺と二人っきりになった途端、愛想の「あ」のじもない冷たく淡々と喋る渥に変わった。この場合戻った、という方が正しいのかも知れない。
「やっぱ猫被ってたのか…」
なんだかイラっとして、そう呟けば渥が位置的に下にいる俺を感情のない瞳で見下ろした。
「そんな面倒臭いことするか。…あの人たちと一緒にいると穏やかになれるんだよ。二人とも変わってないな」
表情は相変わらず無表情だったが、渥の言葉尻からは慈しむようなあたたかさが感じられた。言葉に嘘は無いみたいだ。
「…そっか」
俺も自分の親をそんな風に言われて、嫌な気持ちになるはずも無く、むしろ少し嬉しくなった。
「りっちゃん。お前は違うぞ」
「わ、わかってるよ!!いちいち言わなくていいし…てかりっちゃんって呼ぶな!」
どうせ俺といても穏やかな気持ちにはならないんだろ。お前の態度見てたら分かる。
「で?何の用があって来たんだよ」
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