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「期待を裏切らない返事だな」 「当たり前だろ!そもそも俺はヒートが来てもαには頼らない!」 「どうするつもりなんだ」 「抑制剤飲むんだよ」 きっぱり答えると渥が眉を潜めた。 「抑制剤?あれは副作用がキツイだろ」 「…まあ、体に合わない人もいるみたいだけど全員が全員そうとは限らないし」 「まだヒートが来てないなら飲んだことも無いんじゃないのか」 「それは、そうだけど………」 図星だ。 いつ来てもいいように抑制剤は財布に入れてるけど、飲んだことはない。 よくテレビで抑制剤の副作用で目眩がしたり、吐き気や手の震えを訴える人がいるのを見る。 自然に来る現象を薬で無理やり抑えるのだ。体のバランスが崩れるのも頷ける。 でも、それでも、俺は抑制剤に頼るつもりだった。何故なら… 何故なら俺は、そういうことは好きな人としたいから。 こんなことを口にすると、乙女かよ、とか女々しいとか言われる。実際、Ωについて色々教えてくれた先生にも笑われてしまった。 きっと渥に言っても同じことを言われるだろうから…いや、むしろそれより酷いことを言われそうな気がするので口には出さない。 だけどやっぱりそういう思いが根底にあるから、ヒートを抑える為だけに好きでもない人と、なんて無理だ。 「…まあ、なんでもいいけど。俺、優しくできないから、処女のお前とは合わないかもな」 俺は無意識に考え込んでいたようで、渥の言葉にハッと我に返った。 「だから、処女とか言うな!」 「あ、童貞もだったか」 「うるさいな、もう!そういうことばっか言うなら帰れよ!」 「はいはい、言われなくても帰るよ」 ベッドを軋ませて立ち上がった渥は、上から俺を見下ろしながら、 「学校で接触禁止なの忘れるなよ」 と言い放った。 「は…?…え?こんだけ喋っといてまだそういうこと言ってくるの…?」 「お前が俺の目の届くところで騒いでるのが悪い。不可抗力だ」 い、意味が分からない… 「そういうわけだから、じゃーな」 そう言うと渥は振り返る事なく、さっさと部屋を出て行ってしまった。 下から、母親と渥の喋る声が聞こえて、少しすると玄関の扉が閉まる音が聞こえてた。 「…………学校で、ってことはそれ以外はいいって、こと…?」 散々嫌味なことを言われたのにそこが気になってしまう俺は、もしかしたらチョロいのかも知れないと少し頭を抱えた。

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