61 / 289

第6話

「じゃあこれからフレンドキャンプの班分けの紙を配るから、自分がどこのグループに入ってるのか、同学年だけでも誰と一緒になってるのか目を通しておくように」 今日も朝からクーラーの効いた教室で、ホームルームが始まると担任がそう言った。 フレンドキャンプ? なんだその楽しそうで且つふざけたネーミングは。ネーミングセンスのかけらも感じられない。 初めて聞く単語に首を捻りながら考えていたら、前の席から班分けが書かれているらしい用紙が数枚送られてきた。 自分の分を一枚取って、残りを後ろのケーイチに渡す。朝だというのに眠そうな表情一つせず、いつもの優しそうな笑顔でありがとう、と受け取ってくれた。 相変わらず癒される。 たまに見せる黒い笑顔さえ無ければ言うことはないのに… 「今日の午後に、一年との顔合わせだから13時になったら体育館に集合してくれ。その紙を持ってくるの忘れるなよー。…あ。浅香は初めてだったな。また後で委員長説明してやってくれないか?」 「へっ、?」 突然名前を呼ばれて思わず声が漏れてしまった。周りの目が俺たちに向く。 「分かりました」 後ろでケーイチの声が聞こえたので、チラリと振り向くと相変わらずの穏やかな表情に何故か安心してしまった。 「よろしく頼むぞ。じゃあ、これで朝のホームルームは終わりです」 担任の声と合わせてタイミング良くチャイムが鳴った。 「ケーイチ!フレンドキャンプってなに?間違いなく楽しそうだけど何すんの?てかキャンプってことはもしかして泊まり!?」 俺は即座に椅子ごと後ろを向いてケーイチに尋ねた。佳威もゆったりした動作でこちら側に体を向ける。ケーイチとは大違いでかなり眠そうだ。 ワクワクを抑えきれない俺にケーイチは苦笑いして、ちょっと落ち着いてと言った。 「残念ながら、泊まりじゃなくて日帰りだよ。フレンドキャンプっていうのはね、今年入った一年生と上級生が交流して親睦を深める行事のことなんだ」 「え、上級生ってことは三年も参加するのか?」 「いや、さすがにそこまで参加するとものすごい人数になるから、一年と俺たち二年だけだよ」 「だよな。すごいことになるもんな」 マンモス校であるこの学校の全学年がバスに乗ってどこかに行くなんて、イメージとしては民族大移動だ。 「それで、キャンプってどこに行くの?」 「少しだけ離れた場所に清波山(しばやま)っていう大きな山があるんだけどね。実はそこをうちのOBが寄付してくれてて、毎年そこに行くんだよ」 「山を寄付……」 多分間違いなく寄付したのはαの金持ちOBだと思う。 「それでね、一年生と二年生の混合グループに別れて、山を登って、その先にある野外炊飯場でみんなで楽しくご飯を作るんだ。あと夕方にはキャンプファイアーもあるよ」 「なんだそれ!めっちゃ楽しそうじゃん」 「全然楽しくねえから」 目を輝かせる俺の横で今まで静かだったら佳威がゲンナリした様子で口を開いた。眠いだけなのかと思っていたが、どうやら違うようだ。 「何が嬉しくて知らない奴らと飯なんか作らねえといけねんだよ」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!