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「うるせーよ、有紀(ゆうき)」 「なになに~?なんかあったん?」 「なんもねぇし一年はあっち側だろ。こっち来んなよ」 「やだー!久しぶりに会ったのにそんな冷たいこと言わないで~」 ユウキと呼ばれたそいつは、無邪気に笑った。 なんだろう。 明らかにチャラそうな雰囲気なのだが、笑うと犬歯が覗いてちょっと可愛い。八重歯とかではなく歯並びは綺麗なのに、愛嬌が出るなんてずるいイケメンだ。 そんなことを思いながら、一年生だというユウキとやらを見ていると、彼がこちらに気付いたようでパッと視線を俺に向けた。 「あれー?珍しいね!佳威クンが渓センパイ以外を連れ、ある、いて…………、…………アレ?」 最後まで言うことなく、彼はずいっと俺に近付いて顔を覗き込んだ。 な、なに?近いんですけど…! 「アレ?アレレ?…………え?」 目の前の近い顔が混乱しているように、瞼を何度もパチパチしている。驚くほどに目が大きい。俺の倍はあるんじゃないだろうか… 俺は突然のことに、とにかくできるだけこいつから身体を離そうと後ずさるが、前方からガシッと両腕を掴まれてしまった。 「ヒェ!?な、なに…?」 「おい有紀、やめろよ」 佳威が割って入ってきてくれようとしたところで、目の前の顔がそれはもう嬉しそうにキラキラと輝いて、一瞬で目を奪われた。 そんなことあるはずないって分かってるのに、まるで彼の周りにキラキラのエフェクトが掛かっているみたいだ。 満面の笑みで相変わらず俺の両腕を掴んだままの彼は、興奮気味に口を開いた。 「リクだよね!?リクでしょ!?やばい!絶対リクだ!!」 聞いておきながら最後は自分で断定した彼は、そのまま勢いよく俺を抱きしめてきた。 「ぉわ!!ちょっ…!?」 「有紀!?何やってんだよ!!」 佳威が俺たちを離そうと手を伸ばしきたが、先に気付いたのか彼は俺を抱き締めたままグルンと佳威に自分の背を向けた。 「リク!リク!会いたかったよ!!!本当に本当に会いたかった!!!」 そう言って痛いほど抱き締めてくる彼の甘い香りに包まれながら、リクという懐かしい呼び名で呼ばれている事に気付いた。 昔、自分のことをそう呼んでいた可愛い弟分がいた。 『リクの机だ~。えへへ』 三人で休みの日に学校に忍び込んで、俺が普段使っている机に座り嬉しそうにしていた姿が、ふと浮かぶ。 その時の三人というのが、俺と、渥と、そして渥の弟、有紀だった。 確か佳威は彼を、ユウキと呼んだ。 つまり、 もしかして、こいつ… 「お前、まさか、有紀…か?」 俺がそう問いかけると力強かった力がほんの少し緩まってガバッと彼が顔を上げた。 「そうだよ!リク!あああ、久しぶりだね!久しぶり過ぎるよ!リク~~!」 そういえば笑った顔が人懐っこく猫みたいになるのは、渥と有紀の唯一似ている特徴だった。 軽く興奮状態の有紀は、また勢い良くぎゅうっと抱きついてきて、俺はその体重を支え切れず後ろに倒れてしまった。 「わ!睦人!」 ケーイチの心配する声が飛んで来る中、まるで俺を押し倒しているような有紀は、さすがに佳威に怒られ問答無用で離された。

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