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あのあと離れたくないと駄々を捏ねる有紀を何とか説得して一旦俺たちは別れたのだが、俺は再び有紀に抱き付かれる羽目になっていた。 「あのさ…有紀…」 「なあに?リク!」 「さすがに皆見てるから離してくれない?これじゃ話進まないし…」 「やだやだやだー!無理ー!」 「有紀」 俺を横から抱き締めたまま座り込む有紀の名前を嗜めるようにゆっくり呼ぶ。ちらっと俺の様子を伺ったあと、う~…と頭を俺の肩越しに擦り付けて渋々離れた。 しかし、そのままピタッと体をくっ付けて、そこからは動く気配が無かったので、仕方なくそのまま反対側の隣にいたケーイチに目配せした。 ごめん、こいつもう以上無理だ。話進めてくれ… 俺の思いが通じたのか、ケーイチが苦笑いをして前を向いた。 「はい!じゃあここは気にしないで、みんな揃ってるかな?一応名前呼び上げるから返事してね。じゃあ一年生から、内川さん…」 午後のフレンドキャンプ顔合わせが開始し、それぞれのグループの二年生が事前に学校側で用意されていた数字の書かれたプラカードを手に持ち、その番号の元に一年生たちが集まってくるというシステムで行われた。 皆一様にグループが振り分けられた用紙を手に持って集まる中、俺たちのグループには、まさかまさかの有紀が居たのだ。 俺がグループにいると分かった途端、スキップをするかのように走ってきてそのまま俺にダイブしてきた。 グェッとカエルが潰れたような声を出した俺はまたもや床に倒されてしまった。 さらに、有紀がグループにいると分かった他の女の子達は嬉しそうに頬を赤らめたが、有紀が他には目もくれず俺にダイブしてきたものだから明らかに機嫌が悪くなってしまい…もうあれだ。 負の連鎖。 佳威の苦労が別の方向で分かってしまった瞬間だった。 「うん、みんな居るね。一年生の子達はみんなフレンドキャンプについてある程度聞いてきた?」 点呼が終わりケーイチが朗らかに話しかけると、一年生達は素直にコクコクと頷く。集まったメンバーは男女それぞれ四人ずつでちょうどいい数になっていた。 「ちなみに今年みんなで作るのはカレーだよ。去年もカレーだったけどね」 それに二年の女の子達がぷっと吹き出した。 俺は初めてなので知らないが、やはり野外炊飯といえばカレーなんだろう。カレー好きだから全然いいけど! 「今日決めるのは、当日誰がどの担当で作っていくか、だよ。カレー担当四人、ご飯担当二人、サラダ担当二人で分けよっか。とりあえずこれしたいってのあったら言ってね」 「はーい!俺、リクとご飯担当しまーす!」 ケーイチの言葉に即座に一年生の有紀が反応した。 待て、聞いてないぞ。 勝手に挙手するなよ! 「早いね。他にご飯したい子いない?…居ないか。じゃあ、睦人と黒澤くんはご飯担当ね」 「わーい!やった!リク一緒にがんばろ!」 「お、おー」 ケーイチの助け舟も虚しく、口を出す暇もなく決まってしまった。

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