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「あっぶな…、有紀いきなり引っ張ったら危ないだ、ろ……」 文句を言おうと顔を上げると、予想よりも近くに有紀の端正な顔があった。 さらに言えば今までの喜怒哀楽が分かりやすい表情豊かな有紀からは想像できない程の無表情だ。 冷酷な雰囲気さえ感じ取れて、渥と一瞬ダブる。 目が離せられない。 「ゆ、うき…?」 「ウソつき」 俺の視線を捉えたまま、有紀は静かに低いトーンでそう呟いた。 「ん、む………!?」 言葉を返す暇もなく、突然唇を塞がれた。 柔らかい感触を認識すると同時に、舌がぬるっと滑り込んでくる。 え?え…いやいや…… えーーーーーーーー!?!? キスをされながら脳内で俺が叫ぶ。パニック状態だ。 なぜ?え、なぜ!? なんで俺、今キスされてんの!? ハイスピードでグルグルと考えるがどんなに考えたって意味が分からない。とにかくこの状況から抜け出したくて、掴まれていないほうの腕で有紀の肩を押し返す。 「ゆぅ、っ……!」 しかし、その腕さえも掴まれて抵抗の術を奪われてしまった。嗅ぎ慣れない甘い香りが鼻腔に広がる。 有紀のつけている香水だろうか。むせ返るような甘い甘い、香り。 嫌いな香りじゃない。 むしろ、好きな香りだ。 でも、今はそれが少し重く感じた。 「ん、んん!!」 心臓がドクドクと、いつも以上に早く脈打つ。 この間、部屋でされた渥のからかうようなキスとは違い、有紀のキスは濃厚で執拗だ。俺の動きを封じたまま上体を寄せてくる。 もちろんこんなことに慣れていない俺は、深く貪るような口付けのどこで息を吸えばいいのかも分からず、空気が足りない状態に陥っていた。 「………ふ、…っ」 頭がクラッとする。 ドサッと背中がソファーに沈む感触を感じ、やっと有紀が唇を離してくれた。 「はぁっ…!、はっ…」 流れ込んでくる空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 キスされて空気をうまく吸えないなんて、これじゃみんなに童貞と馬鹿にされても仕方がないな… 目尻にじわっと熱いものが広がるのを感じた。多分、ちょっと涙目になってしまった気がする。 「ゆ、ぅき……おまえ…!」 いつの間にか有紀に跨られている状態になっていて、俺は上にいる有紀を息も絶え絶えに見上げた。 相変わらず表情のない有紀は、そっと俺の口から零れ落ちた唾液を拭った。 「はは…なにその顔。泣いてるの?リク…かわいいね。…それに、…あは」 纏う香りと同様にドロッドロに甘い声を出して俺を見下ろす有紀は、今までの無表情を一気に崩して――心底嬉しそうに笑った。 「こんなフェロモン出すβいないよねぇ?……やっぱりリクはΩだ」 その笑顔に脳内が危険信号を出した。

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