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デリケートな問題をさらっと聞いてくる有紀に、デリカシーというものがあるのか疑問が湧く。
「俺まだ来たことないんだよ。だから分かんない」
「そうなの?遅いねー」
「うるさい」
「まあいいや!来たら教えて!」
「?…なんで?」
「そりゃ、利用しない手はないでしょ」
「お前だけには絶対に教えない」
「ヤダーーーー!!教えて!!利用するとか嘘だからー!!」
絶対に本心だっただろ…。怖すぎる。
いつの間に有紀はこんなヤバイやつになったんだろう。やはり渥同様、桐根学園で揉まれたんだろうか。無きにしも非ずな気がする。
グダグダと話をしている内にだいぶ体力が回復してきたので、俺はよっこらせと重く感じる腰を上げた。
「どこ行くの??」
「帰るんだよ」
「えーー!?泊まって行かないの!?」
言いながら腰に腕を回してくる有紀の頭をグイッと押し返す。
「こんな危険なとこに泊まれるか!」
「なにもしないもん!てか、俺別に危険じゃねえしー!」
「今んとこ俺の中で最高に危険な人物だよ!」
前までは矢田だったが、矢田はミキちゃんしか眼中にないと分かったし、だいぶ危険人物ランクは下がった。そういえばそろそろ一週間の発情期間が終わるから二人とも学校に戻って来る頃だな。
「せっかく再会できたのに……リクとまだ一緒に居たい!…だめ?」
寂しそうな表情を浮かべて俺を見上げてくる有紀に、俺の意思が若干グラつきそうになった。
が、ぐっと堪える。
「駄目!遊ぶって言ったのに嘘ついたの誰だ?」
目的は遊ぶ事では無かったし、まんまと騙された感も否めない。
「う………だあってぇ……」
「俺は嘘つくやつ好きじゃないよ」
「!!!」
分かりやすくショックを受けたような顔をして、有紀は腰に回していた腕をゆっくり緩めた。
「………じゃあ、家まで送る」
「いいよ、別に。すぐだし」
「送る!泊まってくれないならリクと少しでも一緒に居たいもん!!」
「……………じゃあ、ここの下まで送ってよ」
「えー……」
「えー、じゃない!嫌ならお前はここに居ろ!」
「分かった!下までにする!」
分かったと言いながら、もの凄い不貞腐れた顔をしている有紀につい吹き出してしまった。
「お前な、そういうのは俺じゃなくてもっと可愛い子にしてやれよ」
きっと喜ぶからと続けるより先に、目の前の不貞腐れていた奴にギュッと抱き締められ言葉が喉の奥に落ちた。
「だから大好きって言ってんじゃん……リク以外の可愛い子なんて興味ない。リクだから一緒に居たいんだよ。そんなこと…言わないでよ」
有紀の顔は見えなかったが、掠れた声が耳元で聞こえ、何故だか胸がギュゥと締め付けられる。
どうしてだろ。
正直、お前とは縁を切る、なんて言ってやってもいいくらいのことはされたと思うのだが、そんな声を出されてしまうと…
いつの間にかすごく広くなった背中に腕を回し、小さい子をあやすようにポンポンと優しく叩いた。
俺の動きに反応するかのように、抱き着く力が強くなる。
「…また同じ学校になったんだから、これからまた一緒だよ。…大丈夫」
大丈夫、と口をついて出た言葉。
なんとなく…、ただなんとなく有紀は俺と同じなんじゃないかと思った。
ずっと親友で居られると思ってた大切な相手と離れたくないのに、離れてしまってやっとの思いでまた会えた。
もうあの日みたいな思いはしたくない。渥と離れ離れになってしまった俺と、同じ思いをしてるんじゃないかと思ったのだ。
有紀の場合は、それが友愛じゃないと言ったが、不安を感じた気持ちは同じな筈。
そう思うと、安心させてやりたくなって、自然と大丈夫なんて台詞が出た。
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