野外炊飯場は見える距離に、離れ小島のように何箇所かあるみたいで思ったより広かった。 既に着いていた生徒達が、興味深そうに覗き込んだりしている。 「荷物まだの奴らは、向こうのコテージにグループごとにまとめて置いとけよー！貴重品があるやつは各自で保管するように！」 胸板厚めの体育教師が声を張り上げている。俺達は指示に従って野外炊飯場に隣接している建物に向かった。 中に入ると点々と荷物がまとめて置かれていて、ケーイチが窓際の空いたスペースを確保してくれたので俺達も合わせて傍に置いた。 「…ふぅ」 息をついて、そのまま腰を落とす。 登っている時はなんとも思わなかったが、思った以上に疲労していたようだ。 これじゃ女の子のことを言えないな。 しかし文句タラタラだった女の子達はというと、いつの間に仲良くなったのか一・二年同士で「何持っていったほうがいいですか～？」「タオルとかはあった方がいいよ〜」なんてキャッキャ言い合っている。 「睦人大丈夫？」 あいつら元気になるの早すぎだろ…なんてボーと見ていたら、上からケーイチの声が降ってきた。見上げると心配そうにこちらを伺ってくれる顔と目が合う。落ち着いた茶色の髪が顔に影を作っていた。 「あ、ごめん。全然大丈夫！」 「そう？曇ってても熱中症にはなるからね。無理しないで」 「リクだいじょーぶぅ？」 隣に腰を下ろして有紀まで心配をしてくれる。本当に心配してるのか謎なほど軽い調子ではあったが、大丈夫だと頷いた。 「お前らやっと着いたのかよ。おっせーぞ」 後ろから聞き慣れた声が聞こえ、振り向くと佳威が長ズボンに両手を突っ込んだままこちらに歩いてきていた。 「佳威クンだ～」 「途中ハプニングがあったんだよ」 屈みこんでいたケーイチが、佳威の言葉に返しながら腰を起こす。 「あの短時間でハプニングに遭遇するのがすげえな。…睦人？どうした？」 座り込む俺に気付いた佳威が、無意識なのか眉間に皺を寄せながら近寄ってくる。 「何でもない！ただの運動不足だよ」 なんだか無駄に周りに心配かけている気がして、俺は笑いながら立ち上がろうとした。 その時―― 「わっ、リク！？」 一瞬目の前の景色が歪んだ。 クラリ、と立ち眩みのような眩暈を感じよろけた俺を、すぐ傍にいた有紀が咄嗟に支えてくれた。 「睦人！」 近くに居たケーイチも、手を伸ばしてくれたみたいで有紀とは違う手が背中に触れる感触があった。 「もしかしてほんとに熱中症？先生呼んでこようか」 「熱中症って…大丈夫かよ」 傍まで来た佳威が、俺の顔を覗き込む。 自分でも想像していなかったことにビックリしたが、クラリときたのは一瞬だった。 すぐに有紀から離れて、傍に寄ってきてくれた佳威達に笑いかけた。 「ごめんごめん！いや～ビックリした……あ、有紀ありがとな」 「リク、大丈夫？」 「あんま無理すんなよ」 有紀と佳威がそう言い、隣でケーイチが頷く。だけど、もう本当になんとも無くなっていた。 なんだったんだ、今の。