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06

用意されていたお米を洗い、鍋に移し替えた俺たちはケーイチの言う通りかまどのある場所に来ていた。 「これだよな。じゃあ…火か?火は…なに?起こすの、か。いや、さすがにそれは時間かかり過ぎるよな」 シュ、ボッ 「えっ」 実は鍋からお米を炊いた事もなければ、野外炊飯なんてのも初めてのことだったので、少しテンパっている俺をよそに有紀がマッチを擦って薪の中に放り投げた。 「?どうかした?」 「…それ、どこにあったんだ?」 「さっきのとこから持ってきたよー?いるかと思って。あ、やりたかった??もう一本する?」 普段テキトーな有紀の方が、今は俺よりよっぽどしっかりしてて悔しい。 優しい心でマッチを手渡されそうになったが、そっと断わった。 「とりあえず沸騰するまで待機だったよな」 「そうだっけ?じゃあ、座って待っとこ!」 待つ用なのか近くにベンチが設置されていたので、俺達はそこで火の番をすることにした。 周りの生徒達も俺達と同じように座っておしゃべりしたり携帯を弄ったり、男子同士ではしゃいだりしている。一年生が二年生と話しているのか敬語が聞こえてくるのがなんだか新鮮だ。 火を使ったり重い鍋を持つからか、女の子もちらほらいるものの比較的かまどの近くには男子ばかりだった。 有紀は分かってて米担当になったんだろうか。…いや、そこまで考えてないよな。こいつに限って。 「なんかすっげーフリーダムだねー」 なかなか失礼なことを考えていたら、有紀が周りを見渡しながら大きく欠伸をした。 「俺も同じこと考えてたよ。てか、お前も俺じゃなくてもっと他の人たちとも交流した方がいいんじゃないの?これ一応一年と二年の交流会だぞ」 「あーれ。またそういうこと言ってくるわけ?」 「……俺、まずいこと言った?」 「てかさー」 有紀が足を組み替えて、体重を後ろへ掛けた。 「もうあれからだいぶ経つけど、俺、まだ待て状態なのー??」 「バ…!!?」 突然の話題転換と、その内容にびっくりして大きな声が出てしまった。 バカ、と最後まで言いきってはいないが周りの視線がこちらに向く。注目を浴びてしまったことに恥ずかしい気持ちになりながら、有紀に向かって小声で問い返した。 「お前っ…こんなとこで何言ってんだよ!」 「聞こえてないからダイジョーブだよ。俺、リクに言われた通りちゃんと我慢してるでしょ?」 「我慢って……そりゃ、まあ、…そうか?」 学校で会う度に何度も抱き付いて来ていた気がするが。あれはカウントされないのか。

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