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女の子達は有紀に夢中みたいなので、放っておくことにして俺たちは用意した皿にできたものたちをよそっていった。
「いやー、それにしても、黒澤ってほんとスゴイっすよね」
「有紀?」
「はい、だって勉強はできるし運動もソツなくこなす、オマケにあんなイケメンときたら…正直クラスの女子ほとんどあいつ狙いですよ。やってらんないっす」
山下くんがお皿にご飯をよそいながら、ため息をついた。
それを受け取ったケーイチはカレーを上からおたまでかけていく。
「まあ、彼αだしね。大抵のことはできるだろうね」
佳威のことでも思い浮かべているのか、ケーイチが分かる分かるみたいな顔で頷く。
「しかも、あいつの兄貴がまたスゲー人じゃないっすかー?俺βだけど、あの人のそば通ったらなんかめっちゃいい匂いするしドキドキするんすよね」
「すごいのは認めるけど…ドキドキするのはさすがに俺には分からないかな」
ケーイチが苦笑いを浮かべた。
「……… そういえば、渥、来てないよな」
実はバスに乗った時点で確認済みではあったが、わざわざ言うとまたケーイチに黒い笑みを向けられる気がして黙っていたのだ。
「…あー、そうだね。まさか二年でも来ないなんてちょっと意外、と言うかぽいというか…さすがだね」
「ちょっと俺会うの楽しみにしてたんすけど、残念ですー」
「…山下くん結構、黒澤渥のこと好きだね」
「いやー!憧れるっていうかー、あんな男になれたら美女はべらせられんのかなーって!羨ましいんですよ!ぶっちゃけ俺も可愛い子とヤリまくりたいんス!いや、もうほんと黒澤先輩も黒澤もαだからってチートすぎてズルイんだよおぉ!」
「山下くん!本音が!本音がダダ漏れだよ!?」
露骨な表現にあわあわと目の前で手を振ると、山下くんはハッと我に返ったように目を見開いた。
「す、すんません。つい」
「なーに?山下クン?もしかして俺の悪口ぃ?」
「うっ、ぐえ!」
突然頭に重みを感じ、続けて全身にずしっと体重を掛けられ動けなくなった。
頭上から聞こえる間延びした声と甘ったるい香りに、犯人は有紀だとすぐに分かったが、何故俺は頭に顎を乗せられなければならないのだ。カエルみたいな声が出たじゃないか。恥ずかしい。
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