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童貞の俺からすれば耳を疑うユキちゃんの言葉に、有紀は打ち付けていた腰をピタリと止めた。 「…そういうこと言うの?そんな面倒臭いこと言うなら俺やめちゃうよ?いいの?」 「や、やだ…!やめないで…!!」 「じゃあ二度とそういうこと言わないでね?分かった?」 「ごめ、んなさい…」 「イイコー」 そこまで聞いて俺は音を立てないように急いでその場から離れた。 見てはいけなかった。 というか、あまり見たくなかったかもしれない。 先ほどよりも熱く感じる体に、ヨロヨロしながら俺はトイレに駆け込んだ。 洗面台に両手をつき、早まる鼓動を落ち着かせるために深呼吸をする。 鏡に映る自分を見ると、やはり熱があるのか頬が赤く風邪特有の潤んだ目をしていた。 「はぁ…」 チャラいチャラいとは思っていたが、あそこまで軽いやつだとは思わなかった。 女の子の好意に対して面倒臭いと言ったのだ。そんなことってあるか。 最低野郎じゃないか。 俺へのちょっかいも、好きだなんだと言ってはくるが実際のところ男性Ωという興味心だけで行なっているのかも知れない。 そう思うと少し胸が痛んだ。 「って、別にどうでもいいし。てか……ほんと、あっつ…。インフルかな…」 インフルエンザにはまだかかったことはなかったが、明らかに高くなった体温に息を吐く。インフルエンザといえば急激に体温が上がることが多いと聞く。 目の奥がズゥンと重く感じ、下半身もダルい。 だけど少しムズムズする感覚に、ギョッとした。 「……ちょ、俺………マジか………」 意味がわからないが、いつの間にか下半身が元気になっていた。 嘘だろ、あり得ない。 否定をしたいのに、現実に服の上からでも分かる程に股間が上を向いていて、否定のしようが無かった。もしかしたら先ほどの有紀達のエロい行為に影響されてしまったのかもしれない。 最低野郎だと貶しておいてしっかり勃起している自分こそが一番最低なんじゃないかと項垂れていると、心臓が力強くドクンと脈打った。 「うっ…」 思わずその場で座り込み、揺らぐ視界の中トイレの床を見つめる。 心臓が落ち着くのを待っているとタイミング悪く、外から土を踏み締める足音が聞こえてきて、俺は慌てて個室に逃げようと脚に力を入れた。 「っ…」 しかし、足に上手く力が入らない。 こんなところにまで来て一人トイレで元気になっているところを見られるのは非常に不味い。最悪、変態のレッテルを貼られかねない。 だけど俺の焦る気持ちとは裏腹に足音は思った以上に早く近付いてきてしまい、俺は咄嗟に顔を見られないように俯いた。

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